平成27年度を通して、ムンプスウイルスの病原性に関する研究を行った。特に、ムンプスウイルスの宿主細胞への侵入に着目し、ウイルスが細胞に侵入する際の最初の反応であるウイルスhemagglutinin-neuraminidase (HN)蛋白質と受容体シアル酸との結合を、主に以下の2つの手法で解析した。 ①構造解析:ムンプスウイルスのHN蛋白質の構造をX線結晶構造解析の手法を用いて解析した。様々な蛋白発現系を用いてHN蛋白質を発現し高純度精製した。精製蛋白を結晶化し、高エネルギー研究機構(筑波市)のPhoton Factoryを利用して、結晶の回折データを測定した。このデータを解析することによって、HN蛋白質単独での構造、HN蛋白質とシアル酸との複合体の構造を明らかにした。ムンプスウイルスのHN蛋白質の構造の結果からは、これまでに知られている他のウイルスのホモログ蛋白質の構造との比較により、HN蛋白質上の中和抗体のエピトープについても新たな知見が得られた。 ②機能解析:構造解析によって得られた知見をベースとして、培養細胞へのウイルス感染実験やウイルス蛋白をコードするゲノムの導入実験、精製HN蛋白質を用いた糖鎖との結合実験などを行い、糖鎖解析を専門とする研究機関とも連携して、ムンプスウイルスの宿主受容体としてより効率的に機能する糖鎖構造を特定した。今後、これらの糖鎖分子が生体内でどのように分布し発現しているのかを分析することによって、ムンプスウイルスの組織指向性との関連を考察する予定である。
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