研究課題
電子や原子などは古典物理学では説明のできない性質である、スピンという自由度を持つ。近年このスピンを利用した量子情報処理や、超高感度磁気センサーの応用に向けて研究が盛んに行われている。このような応用においてスピンを利用するためには、通常極低温環境が必要であるが、本研究で用いたNV中心は室温で動作するスピンを持つ。NV中心はダイヤモンド中の炭素原子と、その隣に位置する原子空孔から構成されており、光学顕微鏡を用いることで単一の構造が観測できる。本研究の目的は、これまでの光励起を基礎とするNV中心のスピン操作に代わる、電気的励起を基礎とするスピン操作の実現である。これは、光励起と比べて3桁以上高効率、高分解能のスピン操作につながる。実験では、NV中心の電子数(電荷状態)の減少を抑制しながらNV中心を電気的に励起し、励起後の発光プロセスを介してスピン初期化を行う。実験ではまずpinダイヤモンドダイオードを合成し、試料i層中にNV中心を形成した。ダイオードに電圧を加えると、n層から電子、p層から正孔(電子が抜けた後)が注入され、NV中心で結合することで発光が観測される。実験ではNV中心の電子数が減少しないよう、n層中に高濃度のリンを添加し、電子濃度を増加させた。電圧を印加しながらNV中心の電荷状態を調べた結果、NV中心の電子数は減少することなく維持されている可能性が高いことがわかった。これはNV中心が電気的に励起可能であることを示す結果である。電気的励起による発光に関しては、単一NV中心ではなく、NV中心が存在するi層全体からの発光が観測された。この発光は、ダイヤモンドのバンドギャップ中での電子遷移に由来するものと思われるが詳細は不明である。発光の起源を解明し、より慎重に注入電流値を制御することが、今後の目標達成において重要であると考えられる。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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Physical Review B
巻: 93 ページ: 081203
10.1103/PhysRevB.93.081203