仮想的な環境政策評価は、質問票を用い、個人の政策への支払意思額推定を通して便益を計算する表明選好アプローチと、消費者や家計の消費や資産データを用いてこれを推定する顕示選好アプローチで行われる。表明選好アプローチは、政策評価者が質問票に用いる語句を適切に選び、回答者が質問を正しく理解することができれば、幅広い政策に対して信頼できる便益推定を行うことができる。そのため、実務でも、この手法は頻繁に用いられるが、回答者の回答から得られる支払意思額は回答者の実際の行動としばしば異なることが報告されてきた。但し、この指摘は質問票調査と、実験手法を組み合わせて発見されてきたものである。仮想的質問と同様に、経済実験における意思決定もまた、現実世界での行動と異なることが報告されている。そのため、消費などの行動データ・実験データ・仮想質問データそれぞれから導かれる経済パラメタの関係性を明らかにする必要がある。 本年度は、経済実験や仮想的質問による分析の妥当性を検証するため、家計行動データから推定される経済パラメタと経済実験から推定される経済パラメタの比較を行った。具体的には、東日本大震災の前後で、家計の消費・資産データから推定されるリスク回避度や割引率が、経済実験や仮想的質問から推定されるリスク回避度や割引率と似た動きをするのか、先行研究との比較によって検証した。 結果、経済実験や仮想的質問を用いた先行研究では、被災した個人が震災前と比較しリスク回避度が減少すると報告されていたが、実際の消費データからは、子供を持つ核家族に関してはリスク回避度が変化しないことを発見した。このことは、経済実験や仮想質問の対象を、個人のみではなく家計に拡大することで、より信頼性の高い経済分析が可能となることを示唆している。
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