研究課題
リボソーム生合成は、細胞内外の環境変化に応答して厳密に調節されている。出芽酵母において、分泌経路が遮断されるとリボソーム生合成が転写レベルで抑制される。分泌経路の遮断はWsc蛋白質によって細胞膜ストレスとして感知され、そのシグナルがPkc1を介して核内へと伝達されるが、その他の因子に関する知見は乏しい。本研究では、分泌経路遮断時のリボソーム生合成抑制機構におけるTOR (Target Of Rapamycin) 経路の関与の有無について検討した。TOR複合体には、構成因子と機能の異なる2つの複合体TORC1とTORC2が存在する。本年度は、分泌経路遮断によって誘導されるリボソーム生合成抑制機構におけるTORC1の関与について解析した。TORC1はリボソーム生合成調節に関与することが報告されている。TORC1機能欠損株を用いて、分泌経路遮断時のリボソーム蛋白質遺伝子の転写への影響を解析した結果、分泌経路遮断時のリボソーム蛋白質遺伝子の転写抑制は部分的に解除されていた。さらに、TORC1下流エフェクターSch9の欠損株も、分泌経路遮断時のリボソーム蛋白質遺伝子の転写抑制に欠陥を示した。そこで、Sch9欠失株に恒常的活性化型あるいは恒常的不活性化型のSch9を発現させ、分泌経路遮断時のリボソーム蛋白質遺伝子の転写への影響を解析した。その結果、恒常的活性化型を発現させてもリボソーム蛋白質遺伝子の転写抑制に影響を及ぼさなかったが、恒常的不活性化型を発現させると、分泌経路遮断時のリボソーム蛋白質遺伝子の転写抑制が部分的に解除された。以上の結果から、分泌経路遮断時のリボソーム生合成抑制機構にはTORC1-Sch9経路の活性が必要であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
TORC1経路とリボソーム生合成抑制機構との関係について、実施計画をほぼ完了している。分泌経路遮断時におけるTORC1経路の活性については継続して研究を行う必要があるが、研究を行う準備はすでに整えている。また、平成28年度に計画していた内容について、一部解析を進めている。再現性をとる必要があるが、TORC2機能欠損株および脂質合成酵素変異株を用いて、分泌経路遮断時のリボソーム蛋白質遺伝子の転写への影響を解析した。
今後は、分泌経路遮断時におけるリボソーム生合成調節機構におけるTORC2の関与および膜脂質の機能について解析を行う。TORC2構成因子欠失株および下流エフェクターの変異株を用いて分泌経路遮断時のリボソーム蛋白質遺伝子の転写への影響を解析する。膜脂質合成酵素の欠失株についても同様の解析を行う。これらの研究を行うために必要な遺伝子変異株はすでに準備が整っている。
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