研究課題
申請者は、酸化ストレスにより凝集体を形成することが知られている解糖系酵素GAPDHに着目し、GAPDH凝集体がアルツハイマー病等の神経変性疾患発症における促進因子として働く、という仮説の検証を行っている。またこの仮説に従い、GAPDH凝集阻害をターゲットとした新規難治性脳疾患治療法の開発を試みている。本年度は、βアミロイド蛋白質(Aβ)の沈着を主徴とする遺伝子改変アルツハイマー病モデルマウス(3xTg ADマウス)を用いた脳病理変化を観察することで、加齢に従い生じたGAPDH凝集体がAβと相互作用し、Aβ沈着を促進することを明らかにした。さらにsiRNAを側脳室内に投与するGAPDHノックダウン法によりGAPDH凝集体を減少させた結果、Aβ沈着が抑制されることが明らかとなり、アルツハイマー病治療に対するGAPDH凝集阻害の有効性が、in vivoレベルにおいて示唆された(Itakura et al., Journal of Biological Chemistry, 2015)。加えて、他の神経変性疾患モデルとして、中大脳動脈閉塞モデルによる評価を行った。その結果、脳梗塞巣の出現に先立ってGAPDH凝集体が形成されること、さらにGAPDH凝集阻害ペプチドGAI-Xを側脳室内に投与することで脳梗塞巣が減少し、それに伴い片側性麻痺が回復することを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
平成27年度は(1)GAPDH凝集阻害低分子化合物SH-001の薬理評価、(2)個体レベルにおけるSH-001の薬物動態解析、(3)モデル動物の行動変化・脳病理変化の経時的解析を計画していた。(1)では、SH-001が高いGAPDH凝集阻害活性を持ち、細胞毒性やGAPDH酵素活性阻害といった副作用を示さないことを明らかにした。(2)では、現状の合成方法ではSH-001大量合成が難しいことが明らかとなった。そのため、薬物動態解析は行わず、合成効率の向上を目的に実験を進めるとともに、SH-001の母核ペプチドであるGAI-Xを用いた検討を進めている。(3)では、GAPDHとβアミロイド蛋白質凝集の関与を、遺伝子改変マウスにおける脳病理変化の経時的解析によって明らかにした。さらにin vivo遺伝子ノックダウン法によりGAPDH凝集体の重要性を示せたことは、当初計画していた以上の進展である。また他の神経変性脳疾患モデルとして、脳梗塞(中大脳動脈閉塞モデル)におけるGAPDH凝集体の関与についての検討を行った。その結果、脳梗塞巣の出現に先立ってGAPDH凝集体が形成されること、さらにGAI-Xを側脳室内に投与することで脳梗塞巣が減少し、それに伴い片側性麻痺が回復することを明らかにした。以上より、本申請研究は計画変更はあったものの、当初の計画以上に進展していると判断した。
GAPDH凝集体の関与が明らかになった、アルツハイマー病(遺伝子改変モデル・βアミロイド側脳室内投与モデル)および脳梗塞(中大脳動脈モデル)におけるGAPDH凝集阻害剤(GAI-XおよびSH-001)の有効性を、脳病理変化の観察と行動解析試験により明らかにする。さらにGAPDH凝集阻害剤の体内動態(脳内移行性および代謝速度等)の解析および副作用評価を行う。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Journal of Biological Chemistry
巻: 290 ページ: 26072-26087
10.1074/jbc.M115.669291.