研究課題
今年度は、特に青色光受容の最初期重要因子であるZmphot1に注目し、1.リン酸化プロテオーム解析を基盤とした実験を、本学、分子物質化学研究室(藤田、田岡、礒辺ら)との共同研究として取り組んだ。また、ドイツ、ボン大学のBaluskaらとの共同研究として、トウモロコシ幼根における光依存性重力屈曲時のIAA生合成についても研究した。始めに、青色光(LBL)照射によりリン酸化状態が変化するタンパク質をリン酸化プロテオーム解析により網羅的に同定した。その結果、Zmphot1由来の複数のリン酸化ペプチドが検出された。さらに、それぞれのペプチドのリン酸化状態を半定量的に解析した。Zmphot1の一部のSerは暗所でもすでにリン酸化されているが、LBL照射によりリン酸化が促進する部位が同定され、さらに青色光の強度を上げる3か所のリン酸化部位が新たに同定された。加えてリン酸化プロテオーム解析において、暗所およびLBL照射サンプルから共通して検出されたリン酸化タンパク質は約600種類あった。また、約200種のリン酸化タンパク質がLBL照射サンプルに特異的に検出された。その中には、IAA輸送体の一つであるZmPIN1が含まれていた。そのため、幼葉鞘の先端特異的なLBL受容との直接の関連性は不明だが、少なくともLBL依存的なIAA偏差分布に関与している可能性が考えられる。トウモロコシの根は光依存性重力屈曲を示す。屈曲時に根先端のIAA量の増加が検出され、根冠が光受容を介してIAA量を増加させることがわかっており、IAA量の増加および重力屈曲にはIAA合成酵素の関与が示唆された。そこで、IAA合成酵素、ZmTATsとZmYUCsをコードする遺伝子群の根での発現解析を行った。その結果、先端部で発現するいくつかの遺伝子が検出され、光照射によりZmYUC 遺伝子の増加が観察された。
3: やや遅れている
大きな要因の一つは抗Zmphot1を用いたプルダウンに成功していない点である。プルダウンができれいれば、Zmphot1と直接相互作用する因子の同定が期待できる。その場合、Zmphot1を返したLBL依存的な相互作用因子の変化を調べられる。プルダウン実験は抗体を変えたりし引き続き検証中である。変わって、当該年度は網羅的なリン酸化プロテオーム解析からZmphot1、およびZmphot1と相互作用する可能性がある因子の探索を行った。これらの結果から今後の実験に結び付けられるような結果が得られた。一連の実験に時間がかかってしまったため、IAA合成との関連実験が進められなかった。よって機器メンテナンス用に予定していた金額が物品費として使われた。
LBL照射で幼葉鞘の光屈曲が誘導されることから、同定されたLBLにより増加するリン酸化部位に変異を挿入したZmPHOT1遺伝子のコンストラクトを作成する。この変異型及び野生型のZmPHOT1をシロイヌナズナAtphot1欠損株に導入し光屈曲を観察することで、LBL依存的なZmphot1のリン酸化の光屈曲への関与を明らかにする。同時に、Crisper/Cas9システムを用いて、Zmphot1欠損トウモロコシの作出にも取りかかる。また、同定されたZmPIN1のリン酸化ペプチドについて半定量的な詳しい解析を行う。ZmPIN1特異的な抗体は入手済みであり、今後、抗体染色によりLBL照射によるZmPIN1の局在への影響を観察する予定である。また、同定されたZmPIN1のリン酸化部位について、変異を挿入したZmPIN1遺伝子のコンストラクトを作製する。このコンストラクトを用いてパーティクルボンバートメント法による一過的発現解析から細胞内局在がLBL照射により変化するか観察する。さらに、Zmphot1に対する特異抗体を用いたプルダウンを進め、ZmPIN1も含め、Zmphot1と相互作用するタンパク質の検出とそのタンパク質のLBL依存的なリン酸化などの修飾変化について検討を進める。本研究計画の一つである幼葉鞘先端部特異的な光受容とIAA合成の関連を明らかにするため、少なくともZmphot1とZmYUC2の組織、細胞レベルでの局在観察を準備中である。IAA合成酵素であるZmYUC2に対する抗体はすでに作成できているが、ウエスタンブロッティングでの検出に難航していることから免疫組織化学での検出に取り組む予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)