研究課題
本研究の目的は、重度脊髄損傷に対するリハビリテーションを指向して、特定の随意運動に関わる神経経路を選択的かつ活動依存的に強化するための人工皮質間接続法を開発することである。本年度は、人工皮質間接続法を構築するため、霊長類モデル動物であるコモンマーモセット健常個体において、皮質脳波記録と皮質電気刺激が同時に可能な実験系を構築した。初めに、皮質脳波記録と皮質電気刺激が同時に可能な実験系は、コモンマーモセット大脳皮質における慢性電極留置の手技を確立することによって達成した。術後の電極抵抗値が安定していたことや、術後感染や脳圧亢進が見られず個体の体調が良好に維持されていたことにより、慢性的に皮質電極留置する最低限の手技は確立したと言える。次に、皮質脳波記録と皮質電気刺激に関する妥当性は、大脳皮質運動野を電気刺激して得られる運動野マップや、末梢神経を電気刺激して体性感覚野の活動を記録することで得られる体性感覚野マップを描くことによって検証した。結果的に、神経生理学・神経解剖学的に予想される運動野・体性感覚野マップと近いマップを得ることができたことから、人工皮質間接続をおこなう上で十分な皮質脳波記録、皮質電気刺激系が構築できたと言えた。さらに、実験系構築の過程で、強すぎる電気刺激は電極や組織にダメージを与えるだけでなく、記録アンプを飽和させてしまい、記録が一時できなくなってしまうという問題を引き起こすことが判明した。そこで、本年度は上記に加えて皮質脳波記録や皮質電気刺激のパラメータの検証もおこなった。これにより、本研究の最終目標である、人工皮質間接続をおこなう上での技術的基盤が確立した。
2: おおむね順調に進展している
慢性留置した電極に対して電気刺激をおこなうことで、電極が破損してしまうケースが度々見られたため、電極の留置方法や電気刺激のパラメータ、実験スケジュールの検討に時間を要した。本年度の研究目的であった皮質脳波記録と皮質電気刺激が同時に可能な実験系の構築は概ね完了した。
次年度は、今年度構築した実験系を用いて人工皮質間接続の検討を進める予定である。まずは、神経経路を強化する手法としてすでに知られている連合刺激(paired associative stimulation)を皮質内でおこない、この際に生じる誘発電位の大きさを評価する。神経経路が強化されれば、誘発電位の大きさは介入前に比べ大きくなるはずであり、本実験を通じて、人工皮質間接続による神経経路の強化を定量する評価法を確立する。その後、連合刺激よりも効果的に神経経路を強化できると予想される、皮質活動依存的電気刺激法による人工皮質間接続の条件検討をおこなう。
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