研究課題/領域番号 |
15J05883
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 まりこ 東京大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | B型肝炎ウイルス / アデノウイルスベクター |
研究実績の概要 |
申請者らはC型肝炎ウイルス(HCV)に対するshort-hairpin RNA(shRNA)を用いて通常のアデノウイルスベクター(AdV)と比較して、申請者らが開発したVA欠失AdVの有用性が高いことを示してきた。また、複数のshRNAによりHCVの複製抑制効果が相可的に増強されることも明らかにしてきた。AdVは高い遺伝子導入効率を示すため、複数のshRNA発現AdVを同時に導入することが可能ではあるが、AdVの多重感染ではshRNA発現AdVが不均一に細胞に導入されるため効果が一定せず、また、導入しなくてはいけないベクター量も増加するためベクターに対する炎症を惹起する可能性が高い。 HCVと同様に肝炎から肝癌への移行効率が極めて高いB型肝炎ウイルス(HBV)はインターフェロン (IFN)の治療効果がC型肝炎と比較しても限定的であり (約50%の患者がインターフェロン抵抗性を示す)、比較的高い治療効果を示す核酸アナログ製剤においても、耐性株の出現といった問題が残っている。また、HBVは不完全2本鎖DNAをゲノムとして持ち、複製過程で逆転写を経るなど複雑な複製系を有しており、ゲノム塩基配列の変異頻度も高いため、複数のshRNAの応用が好ましいと考える。そこで本研究ではHBVを標的としたshRNAを複数搭載した「複数shRNAタンデム挿入AdV」を作製し、HBVゲノム複製の抑制効果について検討を行うと共に、HBV複製効率の評価方法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.新規shRNAを単独で発現するAdVの作製とHBV複製抑制効率の評価 既報のHBVに対するshRNAの配列(Carmona et al., Mol. Ther., 2005)は、効果が限定的であった。申請者はHBVに対する新規shRNAを単独で発現する6種類のAdVを作製した。HBVは不完全2本鎖DNAをゲノムとして有し、プレゲノムRNAが逆転写される極めて複雑な増殖様式を示すことから、細胞内で複製したHBVゲノムのみを定量的に解析することは困難であった。そこで、申請者はまず効率的なスクリーニング系の確立を行った。 HBVゲノムを搭載したAdVを用いて高効率にHBVゲノムを肝細胞癌由来Huh-7細胞へ導入したところ、複製したHBV DNAをSouthern法で高感度に検出することに成功した。また、本法を定量PCRへ応用することで、複製したHBVゲノムを定量的に測定する方法の開発に成功した。このスクリーニング系を用いて6種類のshRNAについて解析を行い、効率的にHBVゲノム複製を抑制する少なくとも3種類のshRNAの同定に成功した。 2.複数shRNA発現単位の正確なAdV作製用コスミドへのクローニング AdV作製用コスミドの構築時点で、殆どが相同配列であるshRNA発現単位を正確な数・順番で一箇所の挿入領域にクローングすることは困難であった。申請者はshRNA発現単位断片の端に非パリンドロームの制限酵素認識配列をデザインすることで、複数断片を全ての向きをを指定してコスミドカセットに搭載すること成功した。現在、複数shRNA発現単位を搭載したAdVの作製に取りかかっており、作製後HBV複製抑制効果についての検討を開始する。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度には、27年度に構築した複数shRNAをクローニングしたAdV作製用コスミドを用いて新規AdVの作製を行う。750塩基相同のDNA断片はAdVゲノムで安定であることが分かっているが、コピー数が多い場合に欠失が起こるようであれば連結したDNA断片がより安定である方法を検討する。 次に、HuH-7細胞とHBVキメラマウスにおけるHBV複製効率の評価を行う。In vitroでは前述したHBV複製効率の評価系を用いて新たに作製した「複数shRNAタンデム挿入型AdV」のHuH-7細胞における治療効果をshRNA単独発現AdVと比較検討し、新規AdVの有用性を確認する。In vitroで有望な結果が得られた場合には、HBVのモデル動物であるヒト肝臓組織を移植したHBV増殖キメラマウスを用いてHBV複製への抑制効率及び肝臓傷害性について検討を行い新規AdVの治療効果を評価する。
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