研究実績の概要 |
受精は雌雄配偶子の膜融合および、その後の雌雄配偶子核の移動と融合(核合一)をもって完了し、誕生した受精卵は発生に向けた様々な発生プログラムを開始する。しかし、被子植物におけるこの受精・初期発生過程は、厚い子房組織が障壁となり、これまでわずかな知見しか存在しなかった。 報告者は単離したイネ雌雄配偶子を人工的に融合し、受精卵を作出する手法(イネin vitro受精系)と独自に考案したその応用法(雌雄バランスを欠いた倍数性受精卵作出法)を用いることで、配偶子融合の直後に起こる核合一機構への理解を進めた。その結果、これまでに、系時的な核合一動態(Ohnishi et al.,2014, Plant Physiol)にくわえ、卵細胞側の核合一制御機構(Ohnishi et al.,2017, J Plant Res)、精細胞側の核合一促進能(Ohnishi et al., 投稿準備中)の存在を明示した。さらに、植物倍数化への寛容性(Toda et al.,2016, Plant Physiol )や、雌雄配偶子・ゲノムが胚発生に及ぼす効果(Ohnishi et al., 投稿準備中)といった植物胚発生における未知の分子機構の存在も明かにしつつある。 本年度は「精細胞側の核合一促進能」に焦点を当てた研究を推進している。被子植物において受精直後、細胞内Ca2+レベルの一過的上昇が起こることが知られている。この精細胞侵入による細胞内Ca2+レベルの上昇が「核合一促進」に関与した可能性を検討するため、解析を行った。その結果、受精後のCa2+を介した卵活性化の標的の一つに核融合が含まれる可能性が示されており、核合一の促進という新規生命現象とその分子基盤の一旦を露にしつつある(Ohnishi et al.,投稿準備中)。
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