研究課題/領域番号 |
15J05894
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 光規 東京大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | ケージド化合物 / 5HTR / カプサイシン / TRPV1 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、セロトニン受容体(5HTR)を発現するニューロンを新規のケージド化合物BDP-SRを用いて光制御し、5HTRが記憶学習において果たす役割を解明することである。はじめに、N1E細胞にBDP-SRを適用し、基礎的な検討を行った。結果、光照射によって5HTRを介した細胞内Ca2+濃度の上昇を引き起こすことに成功した。続いて、海馬の培養スライスにBDP-SRを適用したところ、光照射によって細胞内Ca2+濃度の上昇を引き起こすことはできたが、当初の目的であるニューロンではなく、グリア細胞が応答していることが判明した。そこで、ニューロンだけを選択的に光刺激する手法を開発することとなった。 ニューロンの活動を制御するためには、細胞内へのCa2+の流入を制御すれば良いと考え、カプサイシンとその受容体TRPV1を利用することにした。まず、カプサイシンをケージド化した化合物BDP-capを新たに開発し、その活性がカプサイシンと比較して低下していることを用量作用曲線の作成により確認した。続いて、TRPV1を発現させたHEK293細胞にBDP-capを適用し、共焦点レーザー顕微鏡にて観察すると、脂溶性の高いBDP-capは細胞内膜系に局在することが分かった。TRPV1を発現する細胞のCa2+イメージングを試みたところ、514 nmのレーザー照射により、細胞内Ca2+濃度の上昇を引き起こすことができた。この細胞応答は、TRPV1のアンタゴニストであるcapsazepineの添加により抑制された。 本年度では、ニューロンの活動を光制御するための基礎的技術の開発に成功した。今後は、この手法を利用し、当初の目的である5HTRを発現したニューロンにTRPV1を発現させ、その活動を制御する手法を確立したうえで研究を推進していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新たに開発したケージド化合物BDP-SRにより、5HTRを発現したニューロンの活動を光制御する手法は、N1E細胞においては機能することが分かったが、海馬の培養スライス系においては狙い通りの機能を発揮しなかった。当初は、海馬に散在する5HTR発現ニューロンを選択的に刺激できると考えていたが、実際には5HTR発現ニューロンを判別することができず、グリア細胞が応答してしまうという予期せぬ結果となった。そのため、研究の推進にあたっては、特定のニューロンを選択刺激する新手法の開発から再度着手せねばならず、実験コンセプトの大幅な修正を余儀なくされた。 研究課題を達成する代替手段として、カプサイシンのケージド化に成功し、TRPV1を発現した細胞のCa2+流入を光で制御する手法を開発した。現時点では、その基礎的検討を終えた段階であり、当初計画にあった5HTR発現ニューロンの活動制御や、5HTR発現ニューロンが関わる神経回路の機能解析を実施できておらず、進捗状況としてはやや遅れていると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画から実験コンセプトを変更し、ケージドカプサイシンとその受容体TRPV1を用いることとなった。今後、この実験系を運用するうえで、TRPV1を特定のニューロンに発現させる必要がある。その達成のために、5HTRプロモーター下にTRPV1を組み込んだプラスミドを構築し、子宮内電気穿孔法による脳組織でのTRPV1発現を行う。その後、TRPV1発現脳スライスを作成し、蛍光指示薬を用いたCa2+イメージングによって、TRPV1発現ニューロンを光制御できるか観察する。 また、これまでの実験から、脳スライスにおいてはケージド解除光を照射する際、出力が高いと光毒性が生じる可能性があることが示唆された。さらに、本研究で利用しているBODIPYケージ基の解除光は500 nm程度であり、GFPや、Oregon Green 488 BAPTAといったCa2+蛍光指示薬の観察チャネルと重複する。この2つの問題点を解決するためには、BODIPYケージ基よりも長い波長の光でアンケージできるケージ基の開発が必要である。具体的には、BODIPY骨格を化学修飾し、長波長化を試みる。
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