研究実績の概要 |
本研究では、この標的遺伝子の配列や発現を変えられるCas9, dCas9と、光感受性タンパク質を用いて生命現象を光によって操作するオプトジェネティクス(光遺伝学)技術を組み合わせ、光で狙った時と空間でのみ、標的遺伝子の配列編集・発現制御を行う技術の開発に取り組んだ。幅広い遺伝子の光操作を実現するため、Cas9分割体と光感受性タンパク質Magnetsを用いて、標的遺伝子の編集と転写抑制化を光制御するシステムの開発に取り組んだ。Cas9をN末端断片とC末端断片に分割し、それぞれに光感受性タンパク質pMagとnMagを連結した。pMagとnMagは、青色光依存的に結合・解離する性質を持つ。暗所では、分割体は離れておりCas9としての活性を持たないが、青色光が照射されると、pMagとnMagが結合する事に伴い、Cas9断片同士が近接・再構成されCas9の活性が生じる。本システムが導入されたHEK293T細胞・HeLa細胞において、光依存的に効率よくゲノム編集を行える事が確認できた。また、光照射領域を限定することで狙った領域における遺伝子編集が可能であり、光照射の中止でCas9活性を止められる事を示した。更に、酵素活性を失わせた光活性化型dCas9を使い、標的遺伝子の転写抑制化を光制御する事に成功した。 さらに、この光活性化型dCas9を用いて、標的遺伝子に対して同時に複数種類の転写活性化ドメインを光依存的に近接させ、強力な遺伝子発現の誘導を実現するシステムを開発した。本システムを応用し、NEUROD1遺伝子の発現を光によって誘導することでヒトiPS細胞の神経分化制御を行えるか検証した。本システムを導入したヒトiPS細胞は、光に応答してNEUROD1遺伝子の発現を上昇させ、4日間の光照射で神経細胞へと分化する事が神経細胞マーカーβチューブリンクラスIIIの免疫蛍光染色により確認された。
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