平成二十九年度は前年度に得られた結果を基に、作製されたダブルトランスジェニックマウスを使用して記憶関連細胞群の時間経過に伴う変化をより明確にすると同時に、遠隔記憶時に再活性化する細胞群の機能性についての解析を進めた。 1.記憶想起のタイミングを変え、海馬歯状回において各時点で活性化される細胞群の比較を行った。実験の結果から、遠隔記憶となった時間枠では、同じ記憶の想起においても近時記憶よりも記憶関連細胞群の再編成が行われにくいことが示唆された。 2.オプトジェネティクスの手法を用いた活性操作を行ない、同領域の遠隔記憶関連細胞群について機能性の評価を行なった。上記の標識系に使用した遺伝学的ツールと対応したウイルスベクター発現系を作成し、任意の細胞群に限局してChR2(チャネルロドプシン)をはじめとする細胞活性操作が可能な遺伝子を発現する系を作成した。まず、ChR2を遠隔記憶想起時に活性化した細胞群に発現させ、その後光照射により同細胞群を人為的に再活性化させた。また、同じウイルスベクター発現系を用いて細胞活性化を抑制するArchT(アーキオロドプシン)を同様に発現させ、活性を人為的に抑制した。以上の結果から、遠隔記憶想起時に活性化した神経細胞群の再活性化により記憶想起が誘導されること、また反対に同細胞群の抑制により、記憶想起が抑制されることが示された。 まとめると、海馬領域は近時記憶のみならず、遠隔記憶の想起プロセスにもなんらかの機能を有していることが推測される。先行研究は海馬機能が不全であったとしても記憶想起ができることを示したが、本研究より、海馬機能は遠隔の記憶想起に際し不要ではなく、大脳新皮質領域とはまた別の想起プロセスにも関与するものと考えられる。
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