研究実績の概要 |
平成27年度は本研究の第一年度として、本研究の出発点となる検討、すなわち同主題の最初期の論者であるWheatonから戦間期学説までの議論枠組みの検討を行った。従来の研究は、国家承認の法的効果を被承認国の国家性獲得の文脈に限定し、承認が国家性を創設する(創設的効果説)のか、両者は無関係(宣言的効果説)なのか、という枠組みで同主題を捉え、承認が二国間関係に与える効果について十分な議論が存在しないが、宣言的効果説の依拠するモンテビデオ条約は承認以前に認められる権利をその他の(慣習国際法上の)権利と区別しており、同時期以前の学説において承認の効果が国家性の問題を離れ論じられていたと示唆されるためである。 実際本研究により、戦間期以前の学説において国家承認の法的効果は、個別の権利義務関係に与える効果、という枠組みで議論されており、国家性の問題は付随的論点であったことが明らかになった。ここで重要なのは、各論者はその法源論から承認の効果を導いていた点である。Wheaton,Bonfilsら初期の論者は、実定国際法としての慣習法上の権利と区別して自然国際法上認められる国家の基本権を認め、後者は承認とは無関係だが前者は承認に依存するとしていた。自然法を否定し国際法の妥当根拠を意思に限定したAnzilottiやOppenheimらは、承認以前には国家間に合意が存在しないため権利義務関係も成立せず、従って承認以前の相手国は国際法主体ではないとするが、承認以前の国家にも合意を取り結ぶ能力を認めており、また承認の不在を国家性の欠如に論理的に直結させていたわけでもない。 以上の検討により、本主題を論ずるに当たっては、国家承認に一切の法的効果を認めないにせよ、未承認国に一定の慣習法法上の権利を認めないにせよ、慣習法が承認以前の国家に何故妥当する(しない)のか、という根拠を伴う必要があることが明らかとなった。
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