研究課題
初期胚発生の後半(着床直前)に関する研究において、これまで子宮内の微小環境と胚発生という観点の研究は十分に行われてこなかったことから、本研究では、胚の初期発生の最終段階に際して起こる「卵巣ホルモンによる子宮内膜の着床能の獲得→子宮内膜による胚盤胞活性化→子宮への胚の接着反応」の過程の分子メカニズムを、マウスの実験系を用いてエピゲノムの観点から検討し、子宮による着床に向けた初期胚活性化の分化調節機構の詳細の解明を目指した。本研究が進展すれば、エピゲノムと着床という新しい研究領域の開拓や、子宮内環境による胚への影響に関する研究という、生殖生物学のうち未だ詳細が明らかでない分野の発展が期待できる。本研究では、卵巣ホルモンにより子宮が着床能を得る過程(①)と、その子宮が胚を活性化する過程(②)に分け、検討を行った。①について、microRNAによる子宮の調節機構に着目した。野生型マウスにおいて、着床期と、着床前の子宮で、microRNAの網羅的発現解析を行った。着床期で2倍以上、発現が上昇したものは全体の2.1%、低下したものは1.2%と少数であった。ヒトでも共通して存在するmicroRNAを抽出し、局在を検討したところ、着床期に低下し、着床の場である子宮内膜に発現が見られたmicroRNA を特定できた。今後は、このmicroRNAについて、ホルモン応答能や機能的役割の検討、標的遺伝子の検索を行っていく予定である。②については、胚の活性化と子宮内膜のエピジェネティックな制御による相互作用に着目した。胚のメチル化に着目し、野生型マウスの活性化した胚と、活性化前の胚について解析した。同時に、活性化前後の胚と子宮のRNAの網羅的発現解析を行った。メチル化による胚の活性化について明らかにするべく、現在、解析中である。今後は、抽出した因子と、子宮の相互作用を検討していく予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
申請者の研究計画においては、当初の目的以上に進行していると推測される。その理由は以下の点が挙げられる。第一に、申請者は着床に関わる可能性のあるmicroRNAを抽出することが出来た。着床のマーカーとなる可能性や、着床期の子宮におけるエピジェネティックな制御の解明に繋がる可能性がある。また、詳細のほとんどわかっていない着床期における胚と子宮の相互作用について、胚と子宮のエピゲノムに関わる有用なサンプルを回収することに成功した。このサンプルの解析を行うことで、胚と子宮の相互作用について新たな見地を得ることができる可能性がある。このように、申請者の当該年度における研究成果は期待以上のものが認められたと考えられる。
卵巣ホルモンによる子宮内膜の着床能の獲得の解明については、引き続きmicroRNAによる子宮の調節機構に着目し、抽出したmicroRNAについて、卵巣ホルモン応答能や、in vivo/vitroにおける機能的役割の検討、標的遺伝子の検索、マウスだけでなくヒト検体を用いた検討を行っていく予定である。胚と子宮の相互作用については、胚のメチル化に着目し、検討を行っていく。まず、胚の活性化、すなわち、胚が着床可能となる変化におけるメチル化の検討を行う予定である。その後、子宮の相互作用を解明するべく、胚と子宮の検討を行う予定である。このように、着床について、エピゲノムの観点から、子宮側、胚側の両面からのアプローチを行っていく予定である。
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