本研究は、多量のDNAを保持することが細菌の生存競争にどれほど悪影響を与えるのかを、実験によって明らかにすることを目的としています。細菌のゲノムサイズがいかにして進化したのかを説明する仮説は、しばしば多量のDNAを保持することの生存競争への悪影響を仮定していますが、その影響の程度が定量されたことはありません。そこで本研究では、この点を明らかにすることを大きな目的として、「DNAの量が単位塩基分増加したとき、増殖速度がどれだけ低下するか」を定量することを目指しました。 昨年度は、大腸菌(モデル細菌)とプラスミド(DNAの小分子)を用いた独自の実験系を構築し、試験的な実験を行いました。そして、DNAの量が多いほど増殖速度が低下することを示唆する結果が得られていました。本年度では、使用するプラスミドの種類を増やしたりすることで、より詳細な実験を行いました。その結果、DNAの量が増加したときどれだけ増殖速度が低下するかを定量することができました。具体的には、プラスミドDNA が1 kbp増加すると、増殖速度が0.033%低下することがわかりました。このように、大腸菌におけるDNAの量と増殖速度の関係が初めて明らかになりました。また、本研究では、この値が培地や、大腸菌の遺伝的背景によって変化しうることも示しました。例えば、富栄養培地での、多量のDNAを保持することの悪影響は、貧栄養培地におけるものよりも小さくなりました。このことは、増殖速度の低下は、培地中のDNAを合成するための物質が不足することが原因であることを示唆しています。このように本研究では、多量のDNAを保持することの悪影響の原因の候補を挙げることができました。
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