研究課題
本研究は3次元臓器再生のための鋳型として期待されている脱細胞化臓器を用いて人工肝臓の構築を試みるものである。初年度の計画としては、脱細胞化骨格へ注入した細胞の分布や生存率、ひいては再構築した人工肝臓の機能向上のため、脱細胞化骨格への細胞注入条件および細胞を生着させた人工肝臓の培養条件を至適化することであった。まず培地や還流速度の条件検討を行ったところ、生着した肝細胞の培養2日後のviabilityが95%以上となるまで改善した。さらに、細胞の注入方法の検討を行い、今回新たに胆管経路を用いた肝細胞注入方法を確立し、これまで主に用いられてきた門脈経路に比べたところ、肝実質腔への細胞分布効率が飛躍的に改善した。現在この細胞充填方法を発展させ、肝細胞に加えて、血管内皮を生着させた人工肝臓の構築に取り組み、その機能解析を進めている。また、細胞源に対する検討として、マウス胎仔肝から分離した肝前駆細胞を用いて人工肝臓を構築しその組織構築と機能を評価したところ、脱細胞化骨格内で培養された肝前駆細胞は通常の平面培養に比較して肝細胞および胆管上皮細胞への分化が促進され、胆管様の脈管構造を形成することが確認された。さらに、この肝前駆細胞を細胞源とした人工肝臓を培養したところ、その機能は成熟肝細胞を細胞源とした人工肝臓とほぼ同等であった。肝前駆細胞は、脱細胞化骨格内においても成熟肝細胞に比べてviabilityが高いことを示唆する所見が得られており、そのことが肝前駆細胞を用いた人工肝臓の機能に貢献しているものと思われた。今後は、ラットの対外循環モデルを用いながら、内皮化された人工肝臓の血栓予防効果を評価するとともに、生体での肝臓機能の発現を図る予定である。
2: おおむね順調に進展している
人工肝臓の再構築および培地循環の方法を確立することができ、安定した培養が可能となった。また、脱細胞化肝臓組織の肝実質腔への細胞注入方法を改良することにより、より本来の肝臓に近い小葉構造を効率的に再現することが可能となった。胎仔肝細胞から採取した肝前駆細胞を用いて人工肝臓を作成しその機能解析を行ったところ、成熟肝細胞と遜色ない機能を持つことが示され、分化の未熟な肝細胞が細胞源となり得ることを示唆するものと解釈された。
これまでの研究で、胆管経由で肝実質腔へ細胞を生着させる方法を確立することが出来たため、今後はこのアプローチを基本とし、門脈から血管内皮を生着させる方法と組み合わせて、肝実質細胞と内皮細胞を生着させた人工肝臓を作成する。とくに肝前駆細胞と血管内皮細胞を組み合わせた人工肝臓はこれから取り組む予定としている。また、こうして作成した人工肝臓では、肝細胞機能が内皮細胞と組み合わせることでどのように変化したか、内皮細胞がどの程度の血栓予防効果を持つのか、組織標本、タンパク分泌能、遺伝子発現などで評価していく予定である。血栓予防効果については、ポンプを用いて血液を還流させて評価を行うが、一定以上の抗血栓機能を有する場合には、生体で機能を発現させるべく対外循環回路に人工肝臓を組み込んで評価する。
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Ann Surg Oncol
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