研究課題/領域番号 |
15J06035
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
ガラシーノ ファクンド 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | オリエンタリズム / 日本表象 / トランスナショナリズム / 移動・移民 / ラテンアメリカ / アジア / モダニティ |
研究実績の概要 |
2015年度は、19世紀末から20世紀前半にかけてのラテンアメリカにおけるオリエンタリズムや日本表象をめぐって研究を行なった。先行研究を整理して批判的に再検討すると同時に、日本やアルゼンチン共和国で資料収集を行い、その成果を学会報告や論文投稿で発表した。 まずアルゼンチン共和国の日本移民の先駆者と記憶される榛葉贇雄(しんや・よしお 1884-1954)の言論活動を精査して分析した。その際、「西洋・オリエント/中心・周辺」というオリエンタリズム的図式を相対化する契機を持った榛葉の日本表象は、アルゼンチンの支配層や知識人層の一部の間で醸成されたナショナリズムや帝国主義的な欲望と、榛葉自身がアルゼンチンで引き受けた日本帝国の論理の共鳴や共犯関係へと展開されたことを論じた。 ラテンアメリカの内部から醸成される帝国主義的想像力や新たな中心化への欲望を指摘することで、ラテンアメリカにおけるオリエント表象の他者を理解しようとするより平等な関係への契機を評価する先行研究の認識や前提に対して批判と問題提起を行なうことができた。 さらに、エンリケ・ゴメス・カリージョ(Enrique Gomez Carrillo 1873-1927)を中心に、19世紀末から20世紀初頭にかけてアフリカとアジアを旅行したラテンアメリカの作家、知識人や官僚の著作、旅行記と講演録を収集して検討した。その際、カリージョはヨーロッパとアメリカ大陸の世紀末を横断するモダニズムを再構成する形で中国や日本の文芸を読みかえていたこと、そして既存の日本像を誇張することで日本イメージをパロディ化し、日露戦争下で日本称讃に耽るラテンアメリカの読者のナショナリズムを批判する回路を論じた。そうすることで、単なるエキゾティシズムを逸脱し、かつオリエント表象に仮託される欲望をも批判的に対象化する表象のあり方を展望した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
日本とアルゼンチン共和国にわたる資料調査を通して、未公刊や直筆の資料を収集し、ほとんど先行研究が存在しない同国における日本移民による言論活動や日本表象のあり方と変遷について基礎的事情を明らかにすることができた。それにとどまらず、オリエンタリズム批判・文学研究・思想史・移民研究などの領域において問いを立てるラテンアメリカにおけるオリエンタリズム・オリエント表象という研究の文脈のなかで検討した事項を位置づけて、批判とさらなる課題を提起することができた。このような経緯から、現在の研究状況における本研究の位置づけや理論的射程をめぐって、当初の計画より充実した成果を挙げることができた。
さらに、アルゼンチン共和国の国立図書館や国立総合文書館、国会図書館において 19世紀末から20世紀初頭にかけてアフリカとアジアを訪問したラテンアメリカの作家、知識人や官僚が残した著作、新聞や雑誌の記事、講演録などを網羅的に調査・収集することができた。そうすることで、単行本として出版されることなく、新聞雑誌上にしか掲載されなかったテキストを少なからず収集することができて、当初の計画より幅広い資料収集を行なうことができた。
上記の調査の成果は、大阪大学主催の国際シンポジウムの口頭発表で公表して、ラテンアメリカにおけるオリエント表象が大きく展開する19世紀末から20世紀にかけての時期に書かれたテキストに関して、当初の計画より考察を深めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
榛葉贇雄を中心にアルゼンチンにおける日本移民の言論活動や日本表象を検討することで、20世紀初頭のアルゼンチンを含めたラテンアメリカにおいて、日本やオリエントを想像し語るうえでの背景や文脈はすでに成立していたことが明らかになり、そうした表象の背景が成立していく過程で、ラテンアメリカやスペインにわたって多くの読者を獲得したエンリケ・ゴメス・カリージョという文芸批評家、作家やジャーナリストの重要性を認識することができた。そのため、今後の研究の水深方策としては、カリージョの執筆活動、テキストや旅行に関する考察を深める。 そのため、まずはヨーロッパとラテンアメリカを横断するジャポニスムの流行をカリージョはいかに受容したのか、そしてピエル・ロティとラフカディオ・ハーンに代表される19世紀後半に英語とフランス語で日本やオリエントをめぐって執筆した作家たちを彼がどのように意識して、どのように踏襲し、またどのように批判したのかを明らかにすることが重要な課題と考える。そうすることで、アメリカ大陸、ヨーロッパ、アジアとアフリカを結ぶ旅行、読書と執筆の経路のなかで、カリージョがどのようにオリエントを構成したのかを考察すると同時に、構成する主体の問題との関連でオリエンタリズムにおけるラテンアメリカの位相という形で本研究の問い立てを改めて提起したい。
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