研究課題/領域番号 |
15J06035
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
ガラシーノ ファクンド 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | オリエンタリズム / トランスナショナル思想史 / グローバル・モダニティ / 移動・移民 / ラテンアメリカ / アジア / 日本表象 |
研究実績の概要 |
2016年度は、19世紀末から20世紀初頭にかけてのスペイン語圏で広汎に読まれた文芸批評家、紀行作家やジャーナリストのエンリケ・ゴメス・カリージョ(Enrique Gomez Carrillo 1873-1927)の作品を中心に、ラテンアメリカにおけるオリエンタリズムと日本表象を研究した。前年度からの研究課題を発展させる形で、カリージョの作品を分析した結果、カリージョのオリエンタリズムの特徴を明らかにすると同時に、アジア、欧州やアメリカ大陸を横断する文学的・思想的状況のなかで彼のオリエント・日本に関する記述を位置づけることができた。これらの研究成果は、学会報告にて公表した。 アジアやアフリカの多様な地域を表象したカリージョの紀行文は、19世紀の後半にかけて世界的な知名度を得たピエル・ロティの旅行文学における主観主義から範を取りつつも、それを文学的方法としてさらに発展させたものであることが明らかになった。カリージョは、旅人の主観的な印象を記述するというロティの印象主義的な方法論の論理を踏襲しつつも、先行する文学テクストのイメージを総動員・総括させながら、旅先の「印象」を美的構築物や文学的な虚構・物語として反省的に構成しなおした。カリージョはオリエント像・日本像の虚構性を自覚することを出発点にしているからこそ、自らが築くイメージをパロディ化し、オリエントのエキゾチックな他者の魅惑を一旦停止させた上で、複雑な問題や苦悩を抱える人びとに出会うための視座を提起することも出来たのである。 上記の結果に依拠して、カリージョの日本紀行文をさらに分析した結果、カリージョは、日本の古典文学や同時代の思想的状況を、異質で不可解なものとしてではなく、むしろ共時的に、しかし不均衡に地球規模で広がる近代という文脈で問題化することで、ラテンアメリカの読者と共有可能なものとして記述していたことを論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
カリージョは、19世紀末から20世紀の前半にかけてのスペイン語圏において高い人気を集めて、同地域におけるオリエント像・日本像の形成に重要な役割を果たした作家である。そこで報告者は、カリージョの作品を丹念に調査し精読して、カリージョが作品中に引用または言及した多様なテクストとの比較検討を行い、さらにはスペイン国立図書館のデータベースを活用して先行研究において見過ごされてきた日本訪問当時(1905年6月~9月)の記事を複数発掘し分析することによって、カリージョの文学の新たな側面を浮き彫りにさせることが出来た。そうすることで、カリージョの「オリエント」や日本に関する紀行文、文学評論やジャーナリズムを中心に、19世紀から20世紀にかけてのラテンアメリカ及びスペイン語圏における、アジアやアフリカなどの諸地域という非西洋世界に対する理解と想像力に対する理解を更新して、拡大させた。
先行研究の中では、カリージョが世紀転換期のスペイン語圏においてエキゾチシズムやオリエンタリズムの第一人者と位置づけられてきたものの、彼のエキゾチシズムやオリエンタリズムの内実が明らかにされてこなかった。このような研究状況に対して報告者は、彼にとって紀行文の模範であり、かつ同時に乗り越えるべきテクストであったロティの紀行文学との比較検討をすることによって、カリージョのオリエンタリズムが方法論として冷静に自覚され、文学的・美的な虚構として計画されていた、という側面を新たに浮き彫りにさせた。
カリージョのオリエンタリズムが自覚された方法論であるという理解をもとにして、さらには今まで見過ごされてきた日本訪問当時の新聞記事から提示される視座を踏まえることによって、アジアやアフリカの文化と社会を、ラテンアメリカの社会や文化と同一の共時的な近代の中で捉えた記述として、彼のジャーナリズムと文芸批評に関する理解を更新した。
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今後の研究の推進方策 |
上記の研究を通して、19世紀から20世紀にかけての転換期のラテンアメリカ及びスペイン語圏において非西洋世界を自己と同一の共時的な近代の中で捉える認識や想像力のあり方が浮上した。したがって今後の研究の推進方策としては、近代を地球規模で共時的に、しかし不均衡に広がる経験の地平として捉えたこのような視座を出発点に、日本とラテンアメリカの間におけるトランス・ナショナルな思想史を描くための軸として展開させていく。
そのためには、次のような課題に取り組む。日本における「南米移民」に関わる多様な主体、組織や団体に着目して、それらの言説と実践から浮かび上がる、アメリカ大陸への移民を意味づけた論理を分析する。移民史研究のなかで、近代日本における移民と植民の連続性が指摘されてきたが、同時代におけるグローバルな植民地主義の展開、解体や再編成のなかでの日本の移民と植民が明確に位置づけられているわけではない。この問題を受けて、報告者は、ラテンアメリカの近代を通して展開した植民地主義の再編成という状況のなかで改めて日本移民を問題化することを目指す。その際、日本移民をめぐる多様な言説や実践と、ラテンアメリカ諸国の文化的・思想的状況との交錯を探りつつ、日本とラテンアメリカを結ぶトランスナショナルな思想史を記述していく。
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