研究課題
①オルガノイドに対する効率的な遺伝子導入法の確立オルガノイド培養は正常組織幹細胞を体外培養可能とする画期的手法であり,レンチウイルスやエレクトロポレーションを利用したオルガノイドに対する遺伝子導入法も既に報告されている.しかしながら,ウイルス作成の手間や効率が足かせであり,まずはより効率的かつ簡便なオルガノイドに対する遺伝子導入法の確立を試みた.様々な条件検討の結果,エレクトロポレーション前後で培地CHIR99021(GSK3阻害剤)およびY27632(ROCK阻害剤)を添加することで.単細胞化後のオルガノイド形成能が向上することを見い出した.加えて,エレクトロポレータおよびエレクトロポレーション条件の至適化を行い,最終的には従来法の約6倍の遺伝子導入効率を達成することが可能であった.本研究成果はNature Protocol誌に掲載された.②大腸腫瘍オルガノイドライブラリを用いた分子生物学的プロファイルの同定大腸癌は正常上皮幹細胞から腺腫あるいは鋸歯状病変を段階的に経由し,最終的に悪性形質を獲得する.それぞれの発癌段階における生物学的特性,分子プロファイルを包括的に解析,把握するためのアーカイブを確立するため,本年度研究ではまず種々の大腸新生物病園からのオルガノイド株樹立を行った.結果として,既存のオルガノイド株と統合し計55株から成る大腸腫瘍オルガノイドライブラリが確立された.それぞれのオルガノイド株について,増殖に最低限必要な増殖因子組成の同定およびエキソーム解析や遺伝子発現マイクロアレイを含む詳細な網羅的分子生物学的解析を行った.本研究成果はCell Stem Cell誌に掲載予定である.
2: おおむね順調に進展している
研究概要の①について,大腸上皮オルガノイドに対する簡便かつ効率的な遺伝子導入方法を確立し,本手法を用いることで当初予定していたIDH1遺伝子変異カセットのノックインに成功した.また,②については予定していた大腸鋸歯状病変からのオルガノイド樹立に付随し,レファレンスとして活用可能な様々な大腸腫瘍からのオルガノイド樹立を行った.その結果,5例の大腸鋸歯状病変オルガノイドに加えて,MSI大腸癌を含めた20例以上の大腸腫瘍オルガノイドの詳細な分子生物学的プロファイルを蓄積することが可能であった.
本年度の成果を基盤とし,次年度では大腸serrated pathwayにおいてエピゲノム変化を誘導する因子の同定を目指す.エピゲノム成因は未だ解明されていない領域であり,次年度での実施が困難な場合には,すでにエピゲノム変化の生じているオルガノイドをスタートラインとし遺伝子操作を加えることで,エピゲノム変化が癌化過程に及ぼす影響について検討を行う.並行して,鋸歯状病変オルガノイドの拡充に努める.
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Cell Stem Cell
巻: 18 ページ: 827-838
10.1016/j.stem.2016.04.003
Nature Protocols
巻: 10 ページ: 1474-85
10.1038/nprot.2015.088.