研究課題/領域番号 |
15J06165
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
田畑 美幸 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | バイオセンサ / エクソソーム / microRNA |
研究実績の概要 |
エクソソームとは細胞外に放出される200 nm程度の大きさを持つ脂質二重膜からなる小胞で細胞間情報伝達機構に関与していることが知られている。microRNA (miRNA)は18-25塩基ほどの長さを持ち、特に体内を循環している分泌型miRNAはエクソソームに内包されており、複数のmiRNAファミリーががん遺伝子を標的として作用していることが注目されている。現状の抗体を主とした免疫染色およびイムノアッセイによる解析は、煩雑で多段階のプロセスを要する古典的な生物学的手法に依存しており、高品質、経済的な未来型医療をより身近な場所で提供できるとは言い難く、新たながん診断プラットフォームを構築することが求められている。本研究では、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor: FET)の動作原理に基づくバイオトランジスタを用いて、がんを迅速に検査するためのがん細胞検出、またmicroRNA解析を目指した核酸の増幅と検出を同一に行うデバイス開発に取り組んだ。 FET計測は半導体微細加工技術によるセンサのデザインが容易であるという利点を有する。FETに基づく電位計測原理は、薄いゲート絶縁膜上に、あるいはエクステンドゲート表面に捕捉された標的分子の荷電または誘電率変化を固-液界面電位変化として直接検出するものであるため、精密な表面設計が重要である。そのため、目的の生体分子を捕捉する機能性センサ表面の構築を目的とした。将検出原理を明らかにするために正常な乳腺細胞と乳がん細胞の比較計測を行うセンサ表面の構築を目的として電位計測を行った。特に核酸の増幅と検出を同時に行うデバイスの開発も目標として取り組んでおり、電位測定における最適条件を整えつつ、モデルサンプルを用いて電位計測を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
核酸を定量的に検出する一般的な技術としてリアルタイムPCRが有用なツールとして用いられているが、PCRは正確な温度制御装置や蛍光ラベリングによる光学的検出装置が必要であり小型化に不利である 近年ではサーマルサイクラーを必要としない等温核酸増幅法が盛んに研究されている。半導体は微細加工術を用いることで高スループットな計測を実現する一方で、温度変化により電気特性が著しく変化する性質を持っているため、測定中に生じる電位不安定性、ノイズの低減が課題とされている。そこで、電位安定性向上およびデバイスの小型化・低コスト化を目指し、等温核酸増幅反応と電気化学計測を組み合わせた、定量核酸検出デバイスの開発を試みた。等温核酸増幅法にはPrimer-generation rolling circle amplification (PG-RCA)を利用した。核酸増幅反応のリアルタイム検出を実現するため、増幅反応産物として放出されるプロトンを指標とした電位計測を試みた。プロトン感応材料としてはイリジウムオキサイドを選択し、熱酸化法により作製し、参照電極と一体化した微小電極システムを構築した。そのpH感度を評価したところNernstの式から導かれる室温での理論値が-59.2 mV/pHに近い値が得られ、pH感度の良いシステムの構築を実現した。target DNAの濃度を0 (Negative control), 10 pM, 100 pM, 1 nMと設定しPG-RCAの電位計測を行った結果、target DNA濃度に依存して電位の振る舞いに大きな違いがみられた。通常PCR法が1時間以上の反応時間を要するのに対し、本方式を用いた場合開始から数10分後には定量解析を実現できる可能性を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はがん検出を行う小型デバイスの作製を目指し、核酸の等温増幅技術に着目してターゲットを非標識に検出する新たな検出技術を確立した。並エクソソームのシアル酸発現量の違いに基づくがん診断デバイスの開発と組み合わせ、ヒト血液試料といったリアルサンプルへの展開を見据えて、開発したセンサを搭載したフローシステムでの評価を行う。電極表面でのターゲット認識能や電極の感度を評価するため、ポンプや電磁弁を用いた制御されたフローシステムの下で電極性能の検討を行いサンプル量の低減を試みる他、リアルサンプルとしてヒト血液試料を用いた評価を目指し、エクソソームおよびmiRNAを検出するマイクロ流体デバイスをデザインする。マスクアナライザー、スピンコーター、ベーキング装置等を用いて、最適化した電極薄膜を搭載する診断チップを試作する。がんの早期発見に繋がる健診・検査受診率を向上させるため、また術後の予後管理を定量的に行い再発などの病状を的確に判断するためには、患者に負担や時間をかけることなく身近の診療所や在宅で、高精度・高感度にがんマーカーを検出できる本研究のような小型で簡易なバイオセンサの開発が有効であると考える。
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