研究課題/領域番号 |
15J06192
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
阪田 直樹 広島大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 双曲的多様体 / 双曲的結び目 / 三角形分割 / 二橋絡み目 |
研究実績の概要 |
本年度は特に、双曲的な円周上の穴あき曲面束から定まるCannon-Thurston写像と標準的分割の関係についての研究を行った。ここでCannon-Thurston写像とは三次元ファイバー双曲的多様体から自然に定まる球面充填曲線であり、標準的分割とは有限体積カスプ付き双曲的多様体に標準的に定まるEpstein-Penner分割のことである。 今、穴あき曲面を一点穴あきトーラスとすると、更に次の二つが得られることが知られている。(1) Cannon-Thurston写像の性質をよく反映した複素平面上のCannon-Dicks-Thurstonフラクタルタイル張りが定まる。 (2) 双曲的な円周上の一点穴あきトーラス束の標準的分割は理想三角形分割であり、標準的分割がカスプトーラスへ導く三角形分割は複素平面上の三角形分割を定める。 Dicks-Sakumaはこれら複素平面上のフラクタルタイル張りと三角形分割が頂点集合を共有するなどの密接な関係を持っていることを示したが、その関係が一般の双曲的な円周上の穴あき曲面束でも成り立つかどうかわかっていなかった。 このような状況を踏まえ、本年度は主に以下の二つを示すことに成功した。(1) 双曲的な“良い”円周上の穴あき曲面束に対して、Cannon-Dicks-Thurstonフラクタルタイル張りが定まる。ここで“良い”と言うのは、その擬アノソフモノドロミーから定まる安定、不安定葉層構造の特異点が曲面の穴にある、という条件を満たすことである。 (2) 双曲的ファイバー二橋絡み目は、その絡み目が右手、左手のホップバンドが交互にプランビングされて得られた曲面の境界になっているとき、その絡み目の補空間から得られるフラクタルタイル張りと標準的分割から導かれる複素平面上の三角形分割は密接な関係を持つ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績の概要で書いた通り、双曲的な円周上の一点穴あきトーラス束で定義されていたフラクタルタイル張りの定義を双曲的な“良い”円周上の穴あき曲面束へ拡張することに成功した。“良い”という条件が必要ではあるが、特異点に穴をあけることで必要な条件は満たされるため、この条件は本質的な問題とはならない。したがって、この結果は本年度に得ることを目標として掲げていた結果であると言える。更に、右手ホップバンドと左手ホップバンドが交互にプランビングされて得られる曲面の境界となっている双曲的ファイバー二橋絡み目の補空間においては、Dicks-Sakumaが示したフラクタルタイル張りと標準的分割から導かれる三角形分割との密接な関係と同様の関係が成り立つことを示すことができた。これは研究計画で想定していた以上の成果である。この事実を得るために、Gueritaudが6月にarXivへ投稿したプレプリントの、veeringである理想三角形分割とCannon-Thurston写像には密接な関係がある、という結果を用いた。このことから、veeringという性質がフラクタルタイル張りと理想三角形分割との関係に本質的に関わっているという認識を持つことが出来た。したがってveeringに関連する性質も本研究で考察するよう計画に加える予定である。 一方、計画に含まれていたソフトウェアの開発は実施することが出来なかった。この先の研究計画に関わる為、来年度の研究計画に再度組み込む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に得られた結果と研究計画に基づき、以下の二つの問題に関して研究をする予定である。 一つ目は、双曲的な穴あき曲面束の標準的分割と、その曲面束のveeringである理想三角形分割との関係を解明することである。先に書いた通りGueritaudは双曲的な円周上の穴あき曲面束のveeringである理想三角形分割と、その曲面束から定まるCannon-Thurston写像に密接な関係があることを示した。しかしながら本年度行った研究の中で、双曲的ファイバー二橋絡み目補空間の標準的分割はそのファイバー構造に関してveeringとならない場合があることがわかっている。この事実から、何故その標準的分割はveeringとならないのか、veeringとなる理想三角形分割との差はどこにあるのだろうか、という自然な疑問が得られる。この課題を解決する為に双曲的ファイバー二橋絡み目補空間のveeringである理想三角形分割を構成することを試みる。特に標準的分割とファイバー構造が良い関係にあると知られている為、veeringである理想三角形分割も同様の性質を持つように構成する。得られた理想三角形分割と標準的分割とを詳細に分析することにより、双方の違いを明らかにできると期待している。 二つ目は、A'Campoが導入したファイバー性判定条件でファイバー性を判定することができる無限族を構成することである。この課題を解決するためのソフトウェアを今年度開発できなかったことから、まずはそのソフトウェアを開発する。またそれと並行して、ファイバー性が判定可能であると予想されている双曲的スラローム結び目補空間において、判定条件で使用する標準的分割を構成することを試みる。候補としてはAgolが与えた構成方法で得られるveeringである理想三角形分割が考えられる。よってまずはその構成で得られる理想三角形分割の記述を与えることを試みる。
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