本年度は前年度で書いた方針のうち、主に円周上の穴あき曲面束上の veering と呼ばれる性質を持った理想単体分割と、その曲面束の幾何的な理想多面体分割である Epstein-Penner 分割との関係を調べることに注力した。 まず計算機実験により、幾何的ではないような veering な理想単体分割に対しては、そのモノドロミーが coronal と呼ばれる性質を持った擬アノソフ写像であろうという予想を得た。この coronal という性質を持つ擬アノソフ写像は、主要な擬アノソフ写像の構成方法である Penner の構成方法からは得られないということが知られている。この予想を検証するため、まず逆に Penner の構成方法で構成された擬アノソフ写像から誘導される veering な理想単体分割を構成し、その分割が幾何的であることを証明しようと試みた。 結果として、Penner の構成方法から得られる擬アノソフ写像の“一部”に関しては、その写像から誘導される veering な理想単体分割を構成することが出来た。これまで veering な理想単体分割の組合せ構造が良く理解されていた無限族は主に一点穴あきトーラス束のみであったが、この結果により veering な理想単体分割の組合せ構造が具体的に記述されている無限族の範囲が広がった。 この結果に続く課題としては次の二つが考えられ、引き続きその課題解決のため研究を続ける予定である。(1) それら一部の擬アノソフ写像から誘導される veering な理想単体分割が幾何的であることを示す。 (2) 一般の場合で veering な理想単体分割を構成し、それらの分割が幾何的であることを示す。
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