研究課題/領域番号 |
15J06195
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
前田 勇樹 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | GAVPO / 光制御 / CRISPR-Cas9システム / Hes1 / 発現振動 / 細胞周期 |
研究実績の概要 |
人工的にHes1の発現動態(Hes1の発現なし、発現振動、持続発現)を誘導するため、光応答性転写因子GAVPOを使った光による転写因子誘導系をHes1欠損型(KO)マウス由来のマウス胎児繊維芽細胞(MEF)に導入し、安定発現株を作成した。その細胞株に2時間から3時間周期で青色光をあてたところHes1の発現振動(2から3時間周期)を誘導することに成功した。また、更に短時間周期(30分周期)で青色光をあてたところ、Hes1の持続発現を誘導することに成功した。 次に、Hes1の発現振動の条件(発現レベル、周期等)が最適かどうか確かめるため、増殖速度が減少するHes1 KOマウス由来のMEFにHes1の発現振動を誘導したとき増殖速度が回復するかどうか調べたがHes1 KO MEFの増殖速度は回復しなかった。これはHes1 KO MEFが細胞株作成までの間に、Hes1がない状態で増殖できるように適応またはHes1がない状態でも増殖速度が高いクローンが選別されたためと考えられた。そこで、私たちは別の細胞株の使用を検討した。 今までの結果より、Hes1 KOの状態で維持するのが不適切だと考えられるので、Hes1 floxマウス由来のMEFの使用、及びCRISPR-Cas9システムを使って有名な細胞株(10T1/2, C2C12等)のHes1 KOの誘導などを検討した。まず、Creリコンビネースを発現させることでHes1を欠損させることができるHes1 flox MEFの使用を検討した。様々な条件で、CreリコンビネースをHes1 flox MEFに誘導してHes1の欠損を目指したがHes1の欠損効率は高くなかった。次に10T1/2, C2C12の使用を検討した。 Cas9はsynthetic guide RNA(sgRNA) が認識できるゲノムのDNA配列付近に結合し、NA二重鎖切断を起こさせる。そこで私たちはHes1遺伝子を欠損できるようなsgRNAとCas9を10T1/2とC2C12に誘導し、Hes1遺伝子の欠損を目指した。いくつかの条件を検討した結果、高効率でHes1を欠損させることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光による転写因子誘導系を用いて、光の照射条件の検討や光を周期的に照射する装置の作成や改良を行い、その結果様々な周期や発現レベルまたは持続発現でのHes1の発現に成功した。 また、本研究の過程で使用していたHes1 KO MEFがHes1の発現振動で増殖速度が回復しなかったことより、「Hes1 KOの状態で維持するのが不適切」というこれからの実験計画に必要な知見を得られた。 また、Hes1 KO MEFが使えなくなったので新しい細胞株やCRISPR-Cas9システムを新たにラボに導入し、CRISPR-Cas9システムによる遺伝子のノックアウト、ノックインに成功した。 以上より、当初予定していた通りには進んでいないが後で必要になる知見の獲得や系の確立に成功しており、問題なく研究は進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
Hes1 flox MEF及びC2C12, 10T1/2においてHes1の欠損による増殖速度が減少するか調べる。増殖速度の減少が確認できた細胞株を使って光によるHes1の発現振動の誘導によって増殖速度が回復するか調べる。増殖速度の回復する条件を見つけたら、その細胞で、Hes1の発現の三つの状態(発現なし、発現振動、持続発現)を誘導し、RNA-seqまたはmicroarrayにより網羅的な遺伝子発現量解析を行う。その結果より、Hes1の発現に伴って変化する細胞周期関連因子を同定する。次にHes1の発現に伴う下流因子のタンパク質量、活性の動態を明らかにする。最後にレスキュー実験として、Hes1、下流因子欠損細胞に明らかになった下流因子の発現動態を誘導した時、細胞周期の制御が正常に行われるかを確かめ、Hes1による細胞周期制御メカニズムの解明を目指す。
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