平成27年度は、アデニレーション(A)ドメインに対する合成分子プローブを基盤として、ペプチド性抗生物質であるグラミシジンS生産菌のプロテオーム中に存在する内在性GrsA及びGrsBのラベル化・検出法の確立を図った。 まず、精製タンパク質においてラベル化されることが確認されているL-Pheに基質特異性を有するGrsAについて、グラミシジンS生産菌であるAneurinibacillus migulanus株のプロテオーム中に存在する内在性GrsAのラベル化・検出を試みた。L-Pheをリガンド部に有するL-Phe-AMS-BPyneを用いて種々条件を検討した結果、GrsAの分子量に相当する120 kDaの位置に特異的にラベル化されるバンドが確認された。そこで、このタンパク質が内在性GrsAであるか確認するため、タグ分子をビオチンに変換し、タンパク質の精製及び同定を試みたところ、内在性GrsAであることが明らかになった。次に、一つのタンパク質上に4つのAドメインが存在するGrsBに対するラベル化実験を行うことにした。GrsBは4つのモジュールからなる約500 kDaの巨大NRPSであり、そのAドメインはそれぞれ L-Pro、L-Val、L-Orn、L-Leuを基質とする。そこで、リガンド部にL-Pro、L-Val、L-Orn、L-Leu を有する4種類のプローブ及び阻害剤をそれぞれ合成し、A. migulanusのプロテオームに処理した。その結果、全てのプローブにおいて内在性GrsBの選択的ラベル化が確認された。また、プローブと阻害剤を組み合わせた競合実験から、それぞれのプローブはリガンド部のアミノ酸依存的にGrsB上の対応した基質特異性を有するAドメインを特異的にラベル化していることが明らかになった。
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