研究課題/領域番号 |
15J06303
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
井並 頌 首都大学東京, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 長期記憶 / ショウジョウバエ / 睡眠 / シナプス |
研究実績の概要 |
本研究では、学習により形成された長期記憶シナプスが、睡眠によりどのような影響を受けるのかを明らかにすることを目的としている。そのために、昨年度は以下の項目を中心に研究を実施した:①後シナプス学習マーカーの選定、②ショウジョウバエ断眠系の確立、③学習マーカー遺伝子と光変換レポーターの融合系統の作成。 【学習前後における遺伝子・タンパク質の発現変動】 学習後に発現が増加する後シナプスマーカータンパク質の同定及び、学習後の詳細な発現変動を知る必要がある。これまでの報告から、homer遺伝子及び、rapsyn遺伝子等を学習依存的に発現上昇する遺伝子として選定してきた。これらの遺伝子が所属研究室での学習方法 (求愛条件付け) 依存的に発現が上昇するかどうかを、定量PCRを用いて調べた。その結果、学習直後においてhomer遺伝子の発現が1.2倍程度上昇することが確認された。一方、rapsyn遺伝子の発現に大きな変化は見られなかった。以上から、homerタンパク質を後シナプス学習マーカーとして選定した。 【ショウジョウバエ断眠系の確立】学習後に「断眠したハエ」と「断眠していないハエ」を用い、睡眠を伴った長期学習依存的なシナプスの数を比較する計画である。そのためには、学習後のハエを効率よく断眠させる系の確立が必要である。当研究室では振とう機 とラボクロックを用いることで、タイミング・期間依存的にハエを断眠させることに成功した。 【光変換レポーター融合遺伝子の形質転換バエの作成】所属研究室ではCRISPER/Cas9システムを用いたノックアウトの系が確立され、この系を利用してhomer遺伝子と光変換レポーターとなる遺伝子の融合ノックインを計画していた。しかしながら、研究の過程でノックイン効率は極めて悪いことが判明した。そのため、形質転換バエの作成を代案として現在進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
学習マーカー遺伝子と光変換レポーターの融合系統の作成に関しては、当初はノックイン系統の作成を予定していたが、すでに当研究室でも確立されている形質転換系統の作成に予定を変更した。しかし新たに計画した形質転換系統を用いても、得られる結果に大きな支障はないと思われる。また、この変更により計画自体に大きな遅れは生じていない。求愛条件付けを用いた学習方法で、homer遺伝子が後シナプス学習マーカーとして使えることを確認した点、断眠系の確立が予定通り進行していることから達成度を設定した。
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今後の研究の推進方策 |
ノックインの代案として、より確実に成功が期待される形質転換バエの作成を現在進行中である。具体的には、homer遺伝子のプロモーター等発現調節領域とhomer遺伝子に対し、光変換レポーターを接続したコンストラクトを作成して、形質転換を行ったハエを作成する計画である。また、融合させるレポーター遺伝子は既に配列を組み立てており、今後人工遺伝子合成にて作成する予定である。この系統を用いて、①長期記憶を作ることができる学習依存的に形成されるシナプスは、形成後どのような動態を示すのか ②断眠によりこれらのシナプスはどうなるのか ③長期記憶変異体ではシナプスはどうなるのかを観察する。特に学習には獲得・固定化・維持・想起の段階があると考えられており、各段階に関わっている変異体を用いてシナプスの変化及び、睡眠がこれらにどう影響するのかを着目する。
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