研究課題/領域番号 |
15J06312
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
宇都宮 遼平 早稲田大学, 法学, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 民事法学 / 民事訴訟法 / 訴訟物 / 事実関係 / 核心理論 / 損害項目 |
研究実績の概要 |
本年度は、不法行為による損害賠償請求の場合にどのような訴訟上の請求概念(訴訟物概念)の構成の仕方があり得るかを検討するために、訴訟物概念と実体法上の請求権概念との関係につき、ドイツやフランスにおける議論を参照しながら研究を行った。そこでは、以下のことを明らかにした。 まず、ドイツにおいては、実体法上の請求権にかかわらず「申し立て(独:Antrag)」および「生活事実関係(独:Lebenssachverhalt)」から訴訟物を特定するいわゆる二分肢説が支配的見解であり、フランスにおいても「当事者(仏:parti)」、「対象(仏:objet)」および「原因(仏:cause)」から訴訟対象を特定するとされ、特に「法的攻撃防禦方法の集中(仏:concentration des moyens de droit)」の原則により原因の同一性が広く解される現在においては、事実主張としての対象のメルクマールが重要であるとされる。このことから、両国とも訴訟物の特定に際しては事実関係を重要視する趨勢にある。このことは、EU域内の統一的なルールの一つである核心理論(独:Kernpunkttheorie)を、EU裁判所の自律的な概念であるとし、各加盟国内の訴訟物概念またはそれに類する概念とは切り離して解釈する見解が支配的でありつつも、両国間の訴訟物特定の指標には一定の接近が見られるということを示唆するものであると考えられる。 また、先述のとおり二分肢説を採用するドイツにおいては、日本におけるよりも訴訟物概念を通常広く把握するにもかかわらず、支配的見解によれば、不法行為による損害賠償請求の場合は損害項目(独:Shadensart)ごとに訴訟物が異なるとされており、日本におけるよりも訴訟物概念を狭く把握していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、ドイツやフランスの文献を渉猟、講読し、特にこれまでのドイツの学説・判例、訴訟物をめぐるヨーロッパ裁判所の見解等を研究調査していったが、これらはいずれも相当な分量があり、当初想定していたよりも研究調査に時間を要してしまった。また、当初とは異なり「利益(独:Interesse)」概念を用いて訴訟物を特定するという新たな学説が存在することが分かり、対象学説のドイツにおける現地調査前に「利益」概念を正しく把握する必要があり、「利益」概念の根拠や具体的適用方法等調査範囲を拡大し、基礎的研究の再検討を要した。また、これに伴い、対象学説の位置付けを明確にするための作業が続いた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、ドイツ、フランス両国とも、訴訟物の特定に際しては事実関係を重要視する趨勢にあり、このことは、EU域内の統一的なルールの一つである核心理論を、EU裁判所の自律的な概念であるとし、各加盟国内の訴訟物概念またはそれに類する概念とは切り離して解釈する見解が支配的でありつつも、両国間の訴訟物特定の指標には一定の接近が見られるということを示唆するものであるということを明らかにした。これに基づき、今後の研究においては、「利益」概念を用いて訴訟物を特定する新たな学説が、このような事実関係に基づくドイツおよびフランスの訴訟物特定の指標の接近をどのように評価しているかを明らかにしていく。 また、二分肢説を採用するドイツにおいては、日本におけるよりも訴訟物概念を通常広く把握するにもかかわらず、支配的見解によれば、不法行為による損害賠償請求の場合は損害項目ごとに訴訟物が異なるとされており、日本におけるよりも訴訟物概念を狭く把握していることを明らかにした。これに基づき、今後の研究においては、不法行為による損害賠償請求の場合にどのような訴訟物概念の構成の仕方があり得るか、その学説の展開を研究調査していき、その中で更に、上記「利益」概念を用いた新たな訴訟物概念の形成を図った学説の、日本法における位置付けおよび許容性、ならびに対象学説によればどのような訴訟物の構成となるかを明らかにしていく。なお、かつて日本においても「生活利益」という概念による訴訟物の特定を提唱した学説が存在したが、対象学説を日本法との比較において研究調査する際にはこれが参考になると考えられる。 なお、ドイツにおける対象学説を研究調査するという今後の研究の推進方策から、今後の比較法の対象としてはドイツを中心に取り扱っていく。
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