本年度は、ドイツにおいて「利益(独:Interesse)」という概念を用いた新たな訴訟物の特定を図った学説が、いわゆる代償請求の場合を訴えの変更とみなさないと定めたZPO264条3号をその根拠としていることに鑑み、上記学説と日本において訴えの変更について規定する民訴法143条との関係について研究を行った。そこでは、以下のことを明らかにした。 ドイツにおける訴えの変更は、訴訟物の変更、すなわち二分肢説により訴えの申立て(独:Antrag)もしくは生活事実関係(独:Lebenssachverhalt)またはその双方の変更と結びつけられている。他方、日本における訴えの変更は、民訴法143条の規定する「請求の基礎」の概念により、訴訟物理論とは切り離されており、かつ訴えの変更の「許否」の判断に際して請求の基礎の概念が基準として重要性を有する。裁判実務において旧訴訟物理論を採用しているとされ、訴訟物の範囲の狭い日本において、訴訟経過に伴う変化に対応するために訴えの変更を広く認めようとするには、この請求の基礎の概念を緩やかに解する必要があり、このことが、訴えの変更と訴訟物理論との関連性をより希薄なものとしていると考えられる。そして、訴訟物が審判対象の基本単位であるということを前提とするならば、このような訴訟物の変更の有無にかかわらない訴えの変更を広く認めることは、その前提となる審判対象の基本単位の設定の仕方に問題があるということを示唆するものではないかと考えられる。したがって、審判対象の基本単位としての、訴訟経過に伴う変化に応じうる訴訟物概念を設定する必要がある。この点、冒頭に述べた学説は、訴訟経過において動態的に展開する訴訟物を観念し、日本においても、訴訟物と訴えの変更との対応関係を明確にし、請求の基礎の概念を訴えの変更の「許否」の基準として明確にするうえで有益であると考えられる。
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