研究課題/領域番号 |
15J06315
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
矢嶋 祐也 千葉大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | タンパク質 / バイオマテリアル / 組織工学 / 細胞培養 / コラーゲン |
研究実績の概要 |
本年度は,タンパク質微粒子を用いたシート状の複合型細胞集塊の構築に関し,1.作製条件が組織形成挙動に与える影響の評価,および,2.細胞機能への影響評価をそれぞれ行った。 1.シート状細胞集塊の作製条件が組織形成に与える影響の評価 昨年度は,タンパク質微粒子を用いることで比較的肉厚なシート状構造を有する細胞集塊を一段階の操作で作製する手法を開発した。本年度は,2年目の課題である,タンパク質微粒子を用いた新規3次元細胞培養法の実証にあたり,上記シート状組織を用いて各種作製条件が組織形成挙動に与える影響を評価した。具体的には,コラーゲン微粒子を用いてシート状組織を作製し,粒子の導入割合,大きさ,ウェルの形状などの作製条件を変化させ,組織の形成挙動を観察した。結果として,作製条件によって組織の収縮度合いに大きな差が生じたほか,ウェル形状を変更することで円柱状の組織を形成させることも可能であった。 2.細胞機能への影響評価 コラーゲン微粒子を用いて作製したシート状組織内における細胞生存率・増殖能の測定,および肝細胞の肝特異的機能の評価を行った。生存率・増殖能の評価については,NIH-3T3細胞を用いて作製したシート状組織を利用し,実験を行ったところ,粒子の導入割合が高いほど,細胞の生存率・増殖能が高く維持されることが判明した。また,HepG2細胞を用いてシート状組織を作製し,肝特異的機能について評価を行った結果,粒子を導入していない組織と比べ,粒子を導入した組織の方がより高い肝機能を発現していることが分かった。さらに,微粒子の種類(架橋方法)を変更することで発現量に差が生じることも確認した。本研究成果は,細胞から3次元的かつ機能的な組織を一段階の操作で簡便に構築する画期的な手法を実証したものであり,将来的に様々な細胞種での組織構築を実現することで,薬剤評価,再生医療分野への応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2年目の課題は,タンパク質微粒子を用いた新規3次元細胞培養法の実証にあった。本年度は,タンパク質微粒子を細胞と高密度に培養することによって立体的な組織を構築することに成功したほか,タンパク質微粒子の導入量や粒子サイズなどといった作製条件を変更することで,組織の形状や細胞密度等を制御可能であることを実証できたことから,2年度の計画は概ね達成することができたと考えている。 加えて,作製したシート状組織内における細胞機能の詳細な評価を実施し,組織内におけるタンパク質微粒子の有無によって機能に差が生じることを示しただけでなく,微粒子の「種類」が機能に影響を及ぼすことを明らかにすることができ,着実に研究成果が得られている。以上の結果から,本年度は当初の計画以上に進展していると考えられえる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成29年度は,これまでに開発した3次元組織の作製法について,細胞機能の詳細な評価を引き続き行うとともに,様々な細胞種への適用可能性について検証を行いたい。 これまでに,単一の細胞種をタンパク質微粒子と組み合わせることで,3次元生体組織の構築を行い,組織の形状制御や細胞機能の維持・向上という観点で本手法の有用性を実証できた。平成29年度は,さらに複雑な組織を構築するために,主に肝組織および血管組織の構築を目標とし,複数種類の細胞を適切なタンパク質微粒子と組み合わせることによって,複合的かつ機能的な組織の構築を試みる。具体的には,肝組織の場合には,主に肝細胞を線維芽細胞または血管内皮細胞と組み合わせることで共培養系を構築し,RT-PCRやELISA法を用いて肝特異的機能の定量的な評価を行う。また,血管組織の場合には,エラスチンやラミニンといったタンパク質を用いて,粒子組成の最適化を行ったうえで組織の形成を試み,線維芽細胞などとの共培養を実施する。その後,生理的・物理化学的な機能評価を行い,導管装置としての有用性を評価する。
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