研究課題/領域番号 |
15J06383
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小野寺 孝興 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 侵害覚受容 / 忌避行動 / カルシウムイメージング / 細胞外電位記録 / カルシウムチャネル / カリウムチャネル |
研究実績の概要 |
生物は外界からの刺激を感覚器・感覚神経で受け取り、その情報処理をおこなう。刺激の中には生体に対して有害なものもあるため、それらに適切に応答し身を守ることは生存上必須である。ショウジョウバエ幼虫の一次感覚神経であるClass IV neuronは、複数の有害な刺激に応答し、その時の状況に沿って個体に異なる忌避行動を惹起させる。例えば、Class IV neuronが42℃以上の高温刺激にさらされると、その神経の活性化により『回転行動』が選択されて起こることで、個体は刺激から逃れていく。しかし、この神経がどのようにして感覚入力を区別して処理し、個体に異なる行動を引き起こすかは不明であった。 これまでに私たちは、Class IV neuronに強い熱刺激を加えると、高頻度の発火列とそれに続く発火停止期で構成されるBurst and pause型の発火パターンが生じることを発見し、この発生が回転行動を亢進させることを明らかにしてきた。新たな研究課題として、Burst and pause型の発火パターンが「どのようなチャネルによって制御されているか」という生成機構を明らかにすることが考えられた。そこで、30以上のチャネルに関して、その変異体やノックダウン個体での熱刺激時の神経活動を記録し、目的の因子をスクリーニングした。その結果、5つのチャネルが候補として残り、更なる解析でその中の1つのカリウムチャネルがBurst and pause型の発火回数とそのpauseすなわち発火停止期の長さを制御することが明らかになった。また、この特徴的な発火パターンを数理シミュレーションによって再構築することにも取り組んだ。理論生物学という私にとって非常に挑戦的な分野であったが、共同研究者との協議によって、幾つかのモデルが完成しつつある状況である。現在、上述の内容を取りまとめて論文を執筆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究は、従来の手法に沿って多くの実験を忍耐強くこなしていく一方で、分野外の解析にも挑戦するというものであった。まず、特徴的な発火パターンがどのようにして生まれるかという生成機構に迫るために、候補となる因子を電気生理学的にスクリーニングした。30以上のチャネルから候補を絞り込むのは、多くの時間と労力を費やす作業であったが、見事に完遂し、目的の因子を同定することができた。また、発火パターンを数理シミュレーションによって再構築することにも取り組んだ。理論生物学は私にとっては未知の分野であり、新たなソフトウェアの使い方を習得することも要求された。シミュレーションを熟知している共同研究者とも協議を重ね、現在、いくつかのモデルが完成しつつある状況である。 本研究に関しては、国内と国外の学会で口頭発表をおこなった。これら2つの学会は、生物学の各分野の垣根を超えた研究者が集うものであり、神経科学を専門としない人にも分りやすく伝えることができたという実感を得ている。それは、単に発表スライドの構成という論理性だけでなく、壇上での振る舞いや英語でのコミュニケーションといったプレゼンテーション技術も向上した結果と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、昨年度の研究結果を取りまとめ、論文を執筆し投稿する。現時点で、骨子となる実験及び解析は8割がた完了している。一方で、主張をより強固にするための補足実験や数理シミュレーションの最適化などのいくつかの課題が残っており、論文執筆と並行しながら作業を進める予定である。 また、「Class IV neuron下流の神経回路でBurst and pause型の発火パターンがどのように情報処理されているか」という読み取り機構にも着手する予定である。下流の中枢神経系にカルシウム指示体を発現させ、Class IV neuronに単なる連続的な発火パターンまたはBurst and pause型の発火パターンを誘導することで、下流のカルシウム動態を観察する。発火パターンの差異によって下流の神経細胞群の応答が異なれば、それらの細胞を同定し、発火応答を記録することを考えている。中枢神経系の細胞群から活動を記録するには、パッチクランプ法と呼ばれる新たな手法を習得する必要がある。そのため、他の研究機関に出張し、技術指導を受けることも考えている。
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