本研究は、手足の形態形成において重要な2つのシグナルタンパク質、SHHとFGFに着目し、両者のバランスの生物種による違いが手足の形態差、特に指の本数の多様性や手足の体サイズに対しての相対的な大きさの多様性をもたらしているのではないかという仮説のもと進められた。 具体的にはSHH、FGFシグナル強度を変化させるような操作実験を行った。まずFGFのSHHに対する作用を明らかにするために、FGFを多孔質ビーズに染みこませ間充織(側板中胚葉)に外的に添加したところ、Hoxd10の発現を誘導し、Tbx2発現を抑制することが示された。肢芽の遺伝子発現操作実験系と肢芽の培養実験系を用いることで、Hoxd10はShh発現を誘導し、Tbx2はShh発現を抑制することを明らかにしており、これらの実験によってFGFのSHHに対する作用因子に大きく迫ることができた。しかし、この実験系ではShh発現を誘導するには至らなかったため、FgfがShhを誘導する際にはさらなる必須因子の関与が考えられる。FgfはShh発現に対して抑制的と考えられるEtv4/5の誘導を行うことが知られており、FGFはSHHの誘導と抑制の両者からなる複雑なShh発現制御ネットワークを形成していると考えられ、これが両者のシグナルバランスの構成要素の一部であると考えられる。 さらにSHH側に対する操作として、Shhを誘導するHoxd10、抑制するAlx4を強制発現し、Shh発現領域(SHHシグナルの作用領域)の拡大、縮小を試みた。結果は期待通りのものであったが、発生の進行とともに、影響が緩和される様子が観察された。この時、SHHシグナルの乱れをFGFシグナルが補正している可能性が高い。これらの内容を含む研究成果を、Shh発現開始メカニズムを明らかにした論文としてまとめ、Developmental Dynamicsに投稿し、受理された。
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