食後高血糖の繰り返しを含めた生活習慣の蓄積には、クロマチン上に後天的に記載される情報、すなわちエピゲノム情報が関与する可能性が考えられている。これまでの研究で、食後高血糖は末梢血白血球における炎症関連遺伝子および動脈組織における接着分子遺伝子の発現を増大させ、慢性的な炎症を介して2型糖尿病の発症・進展を促進する可能性があることを明らかにした。本研究では、食後高血糖による炎症の慢性化にエピゲノム変化が関与しているかを検証した。 ヒト単球様THP-1細胞を、高グルコース培地またはBrd4-アセチル化ヒストン結合阻害剤JQ1を添加した高グルコース培地で24時間培養した後、低グルコース培地に換えて4日間培養した。低グルコース培地で5日間培養した細胞を対照とし、炎症関連遺伝子のmRNA発現量、遺伝子近傍のヒストンH3アセチル化修飾量およびBrd4結合量を調べた。その結果、THP-1細胞を高グルコース培地に24時間曝露すると、その後低グルコース培地に換えても、炎症関連遺伝子(IL-1β、TNF-α等)のmRNA発現量は、対照群と比較して高値を維持した。一方、高グルコース培地にJQ1を添加した細胞では、それら炎症関連遺伝子の発現が顕著に抑制された。さらに、TNF-α遺伝子近傍のヒストンH3アセチル化修飾量およびBrd4結合量は、高グルコースへの曝露により増大し、低グルコース培地交換後も維持されたが、JQ1を添加した細胞では抑制された。これらの結果より、高グルコース刺激による炎症関連遺伝子の発現誘導およびその後の発現維持には、ヒストンH3のアセチル化修飾およびBrd4の結合量の増大が関与していることが明らかとなった。 本研究成果より、食後高血糖の情報はエピゲノム変化として記憶・蓄積され、炎症関連遺伝子の発現増大および維持をもたらし、炎症の慢性化を誘導する可能性があることが示唆された。
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