研究課題
本研究では、ペプチドリボ核酸(PRNA)の次世代型核酸医薬への展開を目指し、細胞内pH応答に基づいたPRNAへのハイポキシア細胞特異的な薬効発現機能の付与を検討した。ハイポキシア細胞特異的な薬効発現のために、正常細胞とハイポキシア細胞での細胞内pHの差異に着目し、この差異をボロン酸エステル形成-解離に誘起される塩基部配向変化に基づいたPRNAの薬効制御を行うトリガーとした。トリガーとする細胞内pHは疾患の種類や部位により多様性を有すると報告されているため、正確な標的特異性を付与するにはPRNAが薬効発現するpH(作動pH)の精緻な制御が求められる。そこで、PRNAの分子内にフェニルボロン酸(PBA)を導入し、PBAの芳香環上の置換基を種々検討することで作動pHの最適化に取り組んだ。PBAを分子内に有する新規PRNA分子(PRNA-PBA)の合成するためにカルボキシル基を有するPBAを活性エステル化し、足場としてリシン残基を導入したPRNAとカップリングした結果、目的物がほぼ定量的に得られPRNA-PBAの合成法を確立した。さらにこの合成法によってDNAとのキメラ人工核酸(PRNA-DNAキメラ人工核酸)へもフェニルボロン酸導入が可能となった。また、種々の官能基を有するPRNA-PBAを合成し、PRNAの作動pHを測定したところ、作動pHはHammett則に従うことが明らかになった。Hammett則を活用することで作動pHを自在に調整し、多様な病原細胞内pHに対応可能となった。また、PRNAの薬効発現制御の鍵となるPBAとcis-ジオールによる環状ボロン酸エステル化反応は応用例が数多くあるが、Hammett則に基づく定量的議論は意外に少なく、本研究の結果は核酸医薬開発だけでなく、その他の応用にも重要な知見を与えるといえる。
2: おおむね順調に進展している
当初、リシン残基側鎖にPBAを導入したモノマーを用い、一般的なペプチド固相合成法によるPRNA-PBA合成を試みたが、副反応により収率が大幅に低下した。収率改善のために、カルボキシル基を有するPBAを活性エステル化し、足場としてリシン残基を導入したPRNAとカップリングした結果、目的物がほぼ定量的に得られPRNA-PBAの合成法を確立した。さらにこの合成法により、PRNAのみならず、無細胞合成系でのアンチセンス実験に展開が可能なPRNA-DNAキメラ人工核酸にもフェニルボロン酸を導入可能だった。以上のことから、おおむね順調に進展していると考えられる。
来年度も引き続き、ハイポキシア特異的核酸医薬の創製を目指した研究を推進する。今年度に合成を達成したPBAを分子内に含むPRNA-DNAキメラ人工核酸を用い、RNase Hを活用する触媒的アンチセンス法により、標的RNAに対し少量であっても十分なアンチセンス効果を示し、さらにpH環境によってその効果が制御可能であることを示す。具体的には無細胞合成系においてmRNAを標的とし、ハイポキシア細胞内に相当するpH6.2付近ではアンチセンス効果を発揮するが、正常細胞内に相当するpH7.2付近ではアンチセンス効果を喪失することを示す。さらに、無細胞合成系での結果を踏まえ、細胞系、動物実験系へも展開する。
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Chemistry Letters
巻: 45 ページ: 350-352
10.1246/cl.151157