生物の様々な行動を司る終脳の発生は、各系統に特徴的な形態と脳機能が密接に関わり合いながら進行する。脊椎動物の終脳の進化に関しては比較形態学的知見が蓄積されてきた一方で、こうした終脳形態の多様性に対応する発生プログラムと、その進化的変化は殆どわかっていない。本研究は、脊椎動物進化の過程で獲得されてきたゲノム配列がどのように現生生物種の発生プログラムにおいて機能しているかを調べることを目的とし、解析を進めた。 本年度は、これまでに収集した遺伝子発現プロファイル、オープンクロマチンプロファイルとゲノム比較情報を統合し解析を進めた。まず、マウスの終脳の遺伝子発現プロファイルを用いて、終脳の発生プログラムが進化的にどの程度変化してきたかを調べた。その結果、終脳発生における遺伝子発現プロファイルは発生の進行に従って進化的に新しい遺伝子が増加していく傾向が見られた。この傾向は、咽頭胚期以降の発生過程において全胚由来の遺伝子発現プロファイルは多様化していくという知見と一致する。また、終脳と胚全体の遺伝子発現プロファイルを比較したところ、遺伝子の獲得と喪失の観点からすれば、終脳の発生プログラムは進化的に比較的古い遺伝子からなること示唆された。 脊椎動物の進化において変化が生じたゲノム領域は、遺伝子外領域が多くを占めることが明らかになってきた。そこで、終脳発生プログラムにおいて活性化される遺伝子制御領域を調べるために、終脳発生と全胚発生のATAC-seqデータを解析した。どちらのデータにおいても、殆どのオープンクロマチン領域が、脊椎動物以降の進化の過程で獲得されたものであった。 以上の遺伝子や遺伝子制御領域のゲノム進化に着目した解析結果から、脊椎動物進化において終脳の発生プログラムは器官発生の初期ほど変化してこなかったと考えられ、また終脳の発生プログラムは進化的に古い可能性が示唆された。
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