研究課題/領域番号 |
15J06435
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中城 光琴 東京大学, 理学(系), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | キスペプチン神経系 / 脳下垂体ホルモン / Gpr54-1/2 / ニューロペプチドB (NPB) / Gpr8 / インサイチュハイブリダイゼーション / 遺伝子組換えメダカ / 定量的PCR |
研究実績の概要 |
本研究では、真骨魚類に属するメダカを用いて、生殖状態に応じてキスペプチン神経系が司る、脊椎動物に保存された未知の機能の解明を目的としている。近年、哺乳類を用いた知見から定説となりつつある、神経ペプチド、キスペプチンが担うキスペプチン神経系の生殖腺機能調節因子としての役割は、真骨魚類をはじめとする非哺乳類には当てはまらないことが示唆されてきている。 我々はこれまでの研究において、キスペプチン受容体、Gpr54-1を発現する細胞特異的にEGFPで蛍光標識した遺伝子組換えメダカを用い、Gpr54-1発現細胞の神経活動の解析を行うとともに、各群の投射部位を組織学的に解析した。また、同細胞が発現する神経伝達物質として、近年報告されてきたニューロペプチドB(NPB)等を同定した。そして、キスペプチン神経系の有力な出力経路の一つとして、脳下垂体における、NPBを介したソマトラクチン(SL)、プロオピオメラノコルチン(POMC)等の脳下垂体ホルモンの分泌制御が仮説として浮上した。 この仮説の検証のため、NPB受容体、Gpr8の脳下垂体での発現分布、及びSL、POMCとの共発現の有無を、インサイチュハイブリダイゼーション等の組織学的手法により検証してきた。また、NPBペプチドの脳下垂体ホルモン発現変動への寄与を検証するため、NPBペプチドを脳下垂体あるいは個体へ投与し、各種脳下垂体ホルモンの発現量変動を定量的PCR法で解析してきた。 最近では、共同研究者から供与されたNPB、Gpr8のノックアウトメダカの利用、Gpr8発現細胞、Gpr54-2発現細胞特異的にEGFP標識した遺伝子組換えメダカの作製を行っている。 以上より、キスペプチン神経系の機能として、NPBを介した内分泌制御が示唆されてきている。キスペプチンとNPBの機能連関の報告は未だないため、本研究から重要な神経内分泌学的知見が得られることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
SL、POMCとGpr8の共局在を検証するための組織学的手法においては、現在までのところ、明瞭な結果が得られていない。脳下垂体における受容体に対するインサイチュハイブリダイゼーションは、特に蛍光二重標識の場合、発現量次第では明瞭なシグナル検出が困難であることがわかってきた。Gpr8の場合も、二重標識の際、標識する試薬によってシグナル検出の状態が異なり、最適なプロトコルを検討中である。 各種脳下垂体ホルモンの発現変動を解析するための定量的PCRでは、NPB投与によりSL発現が減少する傾向が見られているため、NPBを介したSLの発現制御が示唆されている。しかし、脳下垂体の処理条件の検討の必要性も判明した。脳下垂体を脳から単離して直ちにRNA抽出した場合と、単離した脳下垂体を培養液中で数時間インキュベートした場合とでは、後者ではNPBペプチドの添加の有無によらず、有意にSLの発現量が低くなることから、NPB以外のSL発現制御因子の存在も示唆された。したがって、定量的PCRを用いた実験手法に関しても、精査する必要がある。このため予定していたSLペプチドの合成と、婚姻色を示す魚種への投与実験は中止した。 また、キスペプチン受容体のもう1つのサブタイプであるGpr54-2発現細胞についても、Gpr54-1と同様に、特異的にEGFP標識した遺伝子組換えメダカの作製を続けているが、有用な系統の樹立には至っていない。現在、Gpr54-2と類似したEGFPの脳内発現分布を示す個体が得られているため、免疫組織化学とインサイチュハイブリダイゼーションの併用により、EGFPシグナルがgpr54-2発現細胞特異的なものかを確認する段階である。 Gpr54-1発現細胞の電気生理学的解析については上記の実験を優先的に進めたため、まとまったデータが得られていない。今後、同細胞の神経活動について、生殖状態との関係、日内変動の有無など解析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
組織学的手法については、インサイチュハイブリダイゼーションの条件検討を進めるとともに、Gpr8発現細胞特異的にEGFP標識した遺伝子組換えメダカの系を作製中である。この系統が樹立されればEGFPに対する免疫組織化学により、同細胞のシグナルが高感度で検出できるため、容易に共発現する脳下垂体ホルモンが同定できる。 定量的PCRについては、共同研究者より供与されたNPB及びGpr8のノックアウトメダカの系統を解析に用い始めた。今後、同胞の野生型との比較から、NPBが脳下垂体ホルモンの発現に及ぼす影響を調べていく。 また、当研究室で樹立済のキスペプチン神経系の各種ノックアウト系統と、提供を受けたNPB神経系の各種ノックアウト系統を用いた次世代シーケンス(RNA-seq)を行う予定である。野生型との比較により、各系統で発現変動している遺伝子群を網羅的に検出し、表現型解析が可能である。 さらに、キスペプチン神経系がNPBを介して脳下垂体ホルモンの発現ではなく放出を制御している可能性を探るため、Gpr54-1発現細胞、Gpr8発現細胞特異的にカルシウムインジケーター、GCaMPを発現する遺伝子組換えメダカの系の作製に着手する予定である。これによりキスペプチン、NPBペプチド投与時の脳下垂体でのカルシウム応答をイメージングすることが可能となる。Gpr54-1発現細胞が脳下垂体への特徴的な投射を示すことも考慮すると、生理学的にキスペプチン、NPBが脳下垂体ホルモン分泌に寄与することが十分に推測される。 婚姻色など個体レベルでの表現型解析として、当初予定していたタイリクバラタナゴではなく、カダヤシ目に属し、ダツ目に属するメダカの近縁種であるマミチョグ(Fundulus heteroclitus)の利用を検討している。マミチョグはメダカより大型で、ペプチドの脳室内投与等の個体に対する処理が容易であり、本研究室では導入が開始されている。
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