本研究課題は,トポロジカル物質の形状に由来する有限サイズ効果によって獲得されるトポロジカル特性について考察し,これらのトポロジカル特性によって保証される表面状態の非磁性不純物に対する頑強性を調べることを目的としている.研究を通して試料の形状を変えることによって生じる有限サイズ効果とトポロジカルな性質の変化との間にある関係を解析的に明らかにし,また,有限サイズ効果によって現れたトポロジカル特性に関して対応する表面状態が非磁性不純物に対して頑強であるかを数値シミュレーションによるコンダクタンスの計算により評価した. 本研究ではサイズの取り方の典型的な例としてトポロジカル物質の薄膜状の試料を考えた.このような系では膜の上面と下面に表面状態が現れる.それぞれの状態は膜の内部方向へ侵入長を持って存在しており,この侵入長に対して膜厚が薄い場合,上下の表面状態が混成することによってギャップが開いてしまう.三次元の薄膜の場合,三つある空間次元の内一つの次元をサイズの制御に使うが,このとき見られる有限サイズ効果によるギャップは残りの二次元系のバルクでのギャップを見ていることになる.すなわち,薄膜系では膜厚を変化させて有限サイズ効果によって生じるギャップを開閉させることにより薄膜の(二次元としての)トポロジカルな性質を制御することができるはずである.今回,表面状態のバルクへの浸み込みと有限サイズギャップの大きさの関係を示した先行研究の結果を基に,浸み込み量の減衰の仕方が振動的である場合に有限サイズギャップの正負が入れ替わる(=バンド反転が起きている)という考えを元に,薄膜の厚さ方向の一次元的な波動関数の振幅によってトポロジカル指数を得る方法を考案した.この方法と薄膜を擬二次元系とみなした時のトポロジカル指数の計算値が一致することを確認した.
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