研究課題
1.狂犬病発症犬の脳組織に関する病理学的研究昨年度は野外発生犬における狂犬病ウイルスの分布および排泄機構について、病理組織学に検索し、洞毛や舌にウイルス抗原が検出される事を明らかにした。しかし、狂犬病ウイルスの主な増殖部位である脳組織については十分に検索できていない。そこで、フィリピンにおける野外発症犬の脳組織病変を明らかにするため、病理組織学、免疫組織化学的検索並びに蛍光抗体法を実施した。70%の検体において軽度の囲管性細胞浸潤が認められた。炎症スコアリング結果と疫学データとの間に有意な差は認められなかった。海馬と大脳皮質の錐体細胞のネグリ小体は1細胞あたり2個程度であり、最大径は5μm、類円形を呈していた。これに対し、視床の神経細胞ではネグリ小体が1μm以下、1細胞あたりに数個から数十個観察された。このような封入体は脳幹、脊髄の神経核にも多数観察された。以上の結果から、フィリピンの狂犬病発症犬の脳組織における病理形態学的変化は個体により様々であるが、ネグリ小体は脳の部位により形状が異なる事が明らかになった。2.感染初期の所属リンパ節の役割末梢感染における感染初期の免疫応答が中枢神経のウイルス増殖にどのように影響するか明らかにするため、所属リンパ節を切除したマウスに狂犬病ウイルスを末梢感染させ、経日的な臨床症状の観察と中枢神経系の病理組織学的な解析を行った。概ね全てのマウスで感染が成立したが、所属リンパ節切除群、Sham群、Control群の臨床症状の発現と生存率に大きな違いは認められなかった。病理解析では、ウイルス抗原陽性細胞については接種8日目で所属リンパ節切除群のウイルス抗原陽性細胞数が多い傾向がみられた。以上の結果から、ウイルス接種部位の所属リンパ節切除は臨床症状や生存率に大きな影響を与えないが、中枢神経系におけるウイルス抗原の増加に関与する可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
フィリピンRITMでの野外発症犬の捕獲・回収が滞りなく進んだため、158検体分の病理検索を行うことができた。今回のような大規模な病理組織学的研究は前例がなく、今後狂犬病の脳病変を病理検索していくうえで基盤となるデータを得られた。感染初期の免疫動態については、所属リンパ節切除マウスと非切除マウスで臨床症状や生残に差が認められず、予想していた結果を得ることが出来なかった。しかし、所属リンパ節の切除がCNS内のウイルス増加に関与する可能性が示唆されたことから、所属リンパ節の存在がCNS内でのウイルス増殖に影響を与える可能性を示唆するものとなった。
野外発症犬の脳病変については、今後も病理組織学的なデータを蓄積しつつ、脳組織の各部位について微細形態学的な検索を行う予定である。感染初期の免疫動態については、所属リンパ節切除マウスの中枢神経系におけるウイルス増加に関与する因子を明らかにするため、所属リンパ節切除マウスのCNSにおける免疫動態、所属リンパ節の免疫反応を病理組織学的、免疫組織学的に解析する。また、今回臨床症状や生残に対する影響を明らかにできなかったため、接種実験の条件を再検討したい。
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The Journal of Veterinary Medical Science
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1292/jvms.17-0028
Journal of Virological Methods
巻: 237 ページ: 40-46
10.1016/j.jviromet.2016.08.021.