研究課題/領域番号 |
15J06484
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
眞田 洋平 広島大学, 生物圏科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
|
キーワード | 肥満 / 慢性炎症 / マクロファージ / in vivoイメージング / 大腸炎 |
研究実績の概要 |
本研究では,肥満白色脂肪組織の慢性炎症の新たな評価モデルの作出を目的として,肥満白色脂肪組織に浸潤するマクロファージと脂肪細胞との相互作用を体外から非侵襲的に評価することを着想した.すなわち,脂肪組織のマクロファージの浸潤量の増加に鋭敏に応答して発現増加する脂肪細胞由来のマーカー分子を同定し,そのプロモーター活性を利用した新たな動物評価モデルの作出を目指した.急性期炎症タンパク質であるSerum Amyloid A3(Saa3)遺伝子は,マクロファージの浸潤に鋭敏に応答して脂肪細胞において発現量が増加するが,その発現量の増加は,マクロファージとの相互作用によって転写因子であるCEBP/βの活性化によって引き起こされていることを明らかにした.さらには,マクロファージの分泌するTNF-αによってCEBP/βの活性が引き起こされている可能性を見出しており,マクロファージの浸潤によって引き起こされる脂肪組織の慢性炎症の発症において,脂肪細胞のCEBP/βが重要な役割を担うことを示唆した.すなわち,本研究で作出した慢性炎症の評価モデルマウスは,炎症性因子の量的解析のみならず,マクロファージの浸潤に応答して活性化するCEBP/βに制御される遺伝子群の評価につながるとも考えられ,メタボリックシンドロームの予防につながる革新的なモデルマウスであると考えられた.さらには,本モデルにDSS誘導性の大腸炎を発症させた際に,大腸組織で炎症に伴う化学発光が観察可能であることを明らかにした.また,大腸炎組織のSaa3遺伝子の発現量とCEBP/βの発現量は,正の相関を示すことを明らかにしており,本モデルマウスを利用した大腸炎に対する評価モデルの確立は,明確な発症メカニズムが不明であった大腸炎の分子レベルでの解明につながる貴重な研究成果であると想定された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において作出したSaa3-luc-tgマウスは,肥満白色脂肪組織へのマクロファージの浸潤に鋭敏に応答して活性化するSaa3遺伝子のプロモーターに制御される化学発光を体外から非侵襲的に観察可能であることを明らかにした.さらには,berberinやcurcuminといった食品成分が,マクロファージと脂肪細胞との相互作用の抑制作用を有する可能性を,in vitroにおいて明らかにした.さらには,Saa3遺伝子のプロモーター解析を実施することで,転写因子であるCCAAT enhancer binding protein beta(CEBP/β)によってSaa3遺伝子の発現が制御されていることを明らかにし,マクロファージと脂肪細胞との相互作用によって引き起こされる慢性炎症の発症において,CEBP/βの活性が重要な役割を担う可能性を明らかにするなど,化合物などの評価において,Saa3遺伝子のプロモーター活性を評価するのみならず,CEBP/βの活性を評価可能とするなど,慢性炎症の予防に向けて,当初の予想よりも大幅に進んでいる.さらには,大腸炎の評価モデルとしての確立に向けては,大腸炎を誘発したマウスの大腸組織周辺において化学発光が観察可能となるなど,確立した動物モデルの他の炎症疾患への応用の可能性については,さらなる解析が期待される.一方で,肥満脂肪組織特異的な化学発光のみを検出するために,AdiponectineのpromoterにFP635(近赤外蛍光タンパク質)を連結したキメラ遺伝子とのダブルトランスジェニックマウスの作出を目指したが,プロモーター活性の問題や,蛍光シグナルの強度などの問題により,成功にいたっていない.他の蛍光シグナルを用いる検討や,用いるプロモーターを変更するなど改良が必要となる点においては,当初の予定通りに進んでいない部分もある.
|
今後の研究の推進方策 |
肥満白色脂肪組織特異的な化学発光の検出モデルの作出に際しては,Adiponectineのプロモーターではなく,Ap2プロモーターの下流に蛍光シグナル(mcherry)を連結したキメラ遺伝子とのダブルトランスジェニックマウスの作出を目指す方策をとる.食品成分のスクリーニング系の確立が必須であるが,数多くの食品成分ライブラリーをin vivoにおいて検討することは不可能であり,in vitroでのマクロファージと脂肪細胞との相互作用に対する評価が可能となる評価系を構築する.具体的には,Saa3-luc安定形質転換3T3-L1脂肪細胞とRAW264.7マクロファージ細胞との共存培養系を構築するが,その際に,トランズウェルを用いる,または培養上清を用いて行うなど,最適化を目指す.実際に,in vitroにおいて慢性炎症の抑制効果が認められた成分に関しては,Tgマウスを利用してin vivoにおける機能性評価を実施する.一方で,大腸炎の評価モデル関しては,大腸炎を誘発させた際に,大腸組織のルシフェラーゼの発現が,どの細胞由来であるか不明である.ルシフェラーゼに対する抗体,またはCEBP/βの抗体を用いた組織免疫染色を実施し,マクロファージ細胞や上皮細胞マーカーとなる抗体との共染色を実施して明らかにしていく.さらには,大腸炎に対するCEBP/βの役割を明らかにし,Saa3-luc-Tgマウスが,大腸炎の評価のモデルとして有効となりうるかさらなる検討が必要である.具体的には,CEBP/βの発現細胞が特定された場合には,ノックダウン試験による大腸炎への関与を明らかにしていき,さらには,スクリーニングで慢性炎症への抑制効果が認められた機能性成分に関しては,CEBP/βの活性の抑制効果を有することが想定されることから,大腸炎の抑制に対する効果も期待され,in vivoにおける評価を実施する.
|