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2015 年度 実績報告書

疾患特異的iPS細胞を用いた、細胞内代謝分配が血球分化に果たす役割の解明

研究課題

研究課題/領域番号 15J06514
研究機関京都大学

研究代表者

佐伯 憲和  京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)

研究期間 (年度) 2015-04-24 – 2018-03-31
キーワード細胞内ATP分布 / 血液前駆細胞 / メタボローム解析 / 代謝フラックス解析
研究実績の概要

細網異形成症(Reticular Dysgenesis; RD)の原因遺伝子であるAK2の機能喪失変異によっておこる代謝ネットワークの変容と血液前駆細胞の分化運命決定における関係性の解明を達成するため,本年度は特に細胞内エネルギー分子(ATP)分布の取得および代謝プロファイルの詳細な把握を目標とし,解析を行った.まず,AK2が担うATP輸送機構の破綻によって細胞内でのATP分布がどのように変動しているか,FRET法を利用した蛍光プローブであるAteamをRD由来iPS細胞に導入し,iPS細胞および,iPS細胞由来血液前駆細胞において解析を行った.結果,AK2を欠損する細胞では血液前駆細胞でのみ,ミトコンドリア内ATP量が高く,核内ATP量が低いことがわかった.さらに,他の分化系列である原条様中内胚葉および神経前駆細胞においても同様の解析を行ったところ,血液前駆細胞において確認されたATP分配の偏りはおこっていなかった.次にこれまで得られていたRD由来iPS細胞における同位体標識による代謝解析結果をより定量的に評価するために,代謝フラックス解析と呼ばれる数理的解析により詳細に代謝ネットワーク内の流束を予測したところ,TCAサイクルはこれまで仮説として提示していた還元型よりもむしろ酸化型に活性化していることがわかった.
さらに血液前駆細胞を含む分化細胞集団を用いたメタボローム解析を実施したところ,AK2欠損血液前駆細胞に特徴的な代謝プロファイルの抽出に成功し,特にリンゴ酸,トリプトファンなどの代謝物質の蓄積が確認された.以上の結果から疾患特異的iPS細胞を用いた解析により,分化異常を呈する血液前駆細胞に特異的なエネルギー分子の分布異常および代謝産物の蓄積が示唆された.これらは未だ明らかになっていない細胞内エネルギー代謝システムが細胞分化に果たす役割を解き明かす重要な知見になりうると考えられる.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

今年度はRD由来iPS細胞およびそれらに由来する分化細胞を用いて,さらに詳細な代謝機能の解析を行うことができた.これらの解析は研究計画に基づいた内容で実施されており,概ね順調に進展し,一定の成果を得ることができた.また,次年度に計画されていた解析内容も一部実施することができたため,今後より一層多様な解析を行うことができると期待できる.一方で,計画段階で立てていた,RD由来iPS細胞における代謝流束に関する仮説は今年度実施した代謝フラックス解析によって詳細に検証することで否定される結果となった.このことは当初予期していなかった結果ではあるが,代謝ネットワークの複雑性を考慮すると,十分予測および説明が可能な結果であるため,次年度は妥当な結論にたどり着くために今後の研究の方向性に関して,より柔軟かつ慎重に検討することを求められると考えられることから,本評価を選択した.

今後の研究の推進方策

RD-iPSCに特徴的な代謝フラックスプロファイルに関してこれまで考えられていた仮説を修正することができた.今後はこの解析結果と仮説を,分化表現系への影響や,エピゲノム,トランスクリプトームなどの情報と統合することで検証していきたい.また,これらのRD疾患由来iPS細胞を用いた代謝解析に関する論文を現在執筆中である.加えて,AK2の持つ重要な機能であるATP輸送の異常が血液前駆細胞特異的にATPの細胞内分布に変動をもたらすことがFRET法によるライブイメージングにより明らかになった.今回得られた核内でのATP量の低下は遺伝子発現制御に強く関わると考えられるため,上記代謝解析と同様にトランスクリプトームプロファイルの比較に加え,ATP依存的に働く転写システムに対してアプローチし,細胞内のエネルギー分配が血球分化に果たす役割を詳細に解明したい.このRD-iPSCの分化表現系とATP分布との関連性に基づいた論文は,現在投稿中であるため,次年度はより一層の研究成果のアウトプットも期待できると考えられる.

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2016 2015

すべて 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件)

  • [学会発表] Multi-omics analysis for elucidating the potential role of intracellular bioenergetic and gene expression network on controlling the fate of hematopoietic progenitors using patient-specific iPS cells2016

    • 著者名/発表者名
      Saiki N., Oshima K., Hirayama A., Soga T., Tomita M., Nakahata T., Saito MK.
    • 学会等名
      ISSCR Annual Meeting 2016
    • 発表場所
      San Francisco, California, USA
    • 年月日
      2016-06-22 – 2016-06-25
    • 国際学会
  • [学会発表] Pluripotent stem cell models of reticular dysgenesis as a tool for elucidating the potential role of intracellular bioenergetic systems on controlling the fate of hematopoietic progenitors2015

    • 著者名/発表者名
      Saiki N., Oshima K., Hirayama A., Soga T., Tomita M., Nakahata T., Saito MK.
    • 学会等名
      ISEH 44th Annual Scientific Meeting
    • 発表場所
      Kyoto, Japan
    • 年月日
      2015-09-17 – 2015-09-19
    • 国際学会
  • [学会発表] The contribution of metabolites of the TCA cycle to maintenance of pluripotent stem cell2015

    • 著者名/発表者名
      Saiki N., Okazaki H., Hirayama A., Soga T., Tomita M., Nakahata T., Saito MK.
    • 学会等名
      ISSCR Annual Meeting 2015
    • 発表場所
      Stockholm, Sweden
    • 年月日
      2015-06-24 – 2015-06-27
    • 国際学会

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公開日: 2016-12-27  

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