研究実績の概要 |
シアル酸認識レクチンシグレック9は、単球や顆粒球に発現している。当研究グループは、シグレック9とがん細胞上のシアル酸含有糖鎖との相互作用によるがん細胞の運動性の増強を報告した。がん細胞内でシグナル分子の分解が亢進される一方、シグレック9を発現するヒト単球細胞では、がん細胞との相互作用によって抑制性シグナルが伝達されることを示した。このことより、がん細胞の転移や浸潤をシアル酸が増強させると共に、免疫監視機構を抑制してがん細胞に有利な環境を提供していることが示唆された(Sabit, et.al., 2013)。また、当グループは乳歯の歯髄幹細胞(SHED)とその培養上清がマクロファージを抗炎症(M2)型に転換させて脊髄損傷等の炎症疾患に治療効果を奏することを示してきた(Matsubara, et. al., 2015)。さらに、マクロファージのM2誘導因子として、SHEDの培養上清からシグレック9の細胞外ドメインとケモカインMCP1の2因子を同定した。M2誘導にはシグレック9がマクロファージのケモカインレセプターCCR2上のシアル酸含有糖鎖に結合することが必要であることも報告し、炎症疾患の新たなターゲットが示唆された。本研究におけるシグレック9-シアル酸相互作用の詳細な解析により、難治性疾患の新規治療法の確立が期待できる。 平成28年度においては、2因子によるマクロファージのM2誘導メカニズムを解明すべく、ブレオマイシン(BLM)誘発性肺線維症をモデルとした検討を行った。当グループではSHEDの培養上清がBLMマウスの治療に有効であることを報告しており(Wakayama, et. al., 2015)、2因子も同様の効果を示すことが先行研究からわかっている。申請者は肺線維症への2因子の介入メカニズム解明を目的に、BLMで惹起された肺炎のマウス肺細胞をFACSにて解析した。
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