本研究では,熟達者の技能の追体験に着目し,成功体験と呼べる熟達者の技能を初心者が直接的に経験することで学習効果は高まるのかを検討し,その成果を学習コンテンツ開発に応用していくことを目的としている.研究1では,視覚運動系列学習を用いて,実験参加者が空間的なボタン押し系列を学習するときに,各ボタンに異なる色を付け加えることで学習が促進されるのかを検討した.その結果,色情報が追加された系列を遂行した群は,単色の系列を遂行した群に比べて,より少ないエラー回数で系列を学習できた一方で,平均遂行時間は遅くなることが示された.これは,空間的な系列と色情報の系列に同時に注意を向けて学習することで,系列操作に対する運動表象は促進されなかったことを示唆している.研究2では,モデルの課題遂行成績が学習者の課題遂行成績に与える影響について検討した.まず実験1として,系列反応時間課題を遂行した20名の中から優等モデルと非優等モデルを選定した.実験2では,実験参加者を,優等または非優等モデルが行った課題の動画を観察する群に分類した.参加者は,指を動かさずに,まるで自分が課題遂行しているかのように感じながら観察をするように伝えられた.観察後,全ての実験参加者は観察した系列と同じ系列の課題を遂行した.一つの系列パターンが課題中繰り返されていることに気づかなかった実験参加者の課題遂行成績を比較したところ,系列の学習効果は見られたものの,観察したモデルによって学習効果に有意差は見られなかった.この結果は,モデルの課題遂行成績に依らず,人は観察学習ができることを示しており,非優等なモデルを観察した場合でも,その中から学習に必要な要素を抽出し,モデルの課題遂行成績による干渉は受けないことを示唆している.これらの2つの研究成果をまとめた内容を平成28年度に学会発表する予定であり,現在,論文の執筆を行っている.
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