本研究では,熟達者の技能の追体験に着目し,成功体験と呼べる熟達者の技能を初心者が直接的に経験することで学習効果は高まるのかを検討し,その成果を学習コンテンツ開発に応用していくことを目的としている.平成28年度は,実験参加者が技能学習時に感じる時間知覚について検討した.実験では,参加者は規則のある系列とランダムの系列を遂行しながら,1分間経過したと思ったところで作業を止めるという課題を行い,学習の進捗と共に時間知覚がどのように変容するのかを検討した.結果として,参加者は,規則のある系列を遂行しているときに,ランダムの系列を遂行しているときに比べて,作業時間を短く感じていることが分かった.これは,学習という非時間的情報に注意を向けていることによって生じた歪みであることを示唆している.また,この関係性は学習の経過によって変化しない結果も得た.これは,参加者が学習を完了し,非時間的情報に注意を向ける必要がなくなった場合においても,一度歪んだ時間知覚を維持していることを示唆している.以上のことから,規則性のあるパターンの学習を行っている時には,経過時間を短く感じることが明らかになった.現在,この成果を論文として投稿する準備を進めていることに加えて,新たな実験も行っており,熟達者が感じている時間について明らかにしていく.上記の研究とは半ば独立する形で,熟達者の技能を追体験できるシステムおよびデバイスの開発を行った.これについては,平成29年度中の成果公開を目指している.
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