研究課題/領域番号 |
15J06594
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中島 保寿 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 糞化石 / 脊椎動物 / P/T境界 / 海洋生態系 / 捕食者 / 大量絶滅からの回復 |
研究実績の概要 |
2015年度は主に糞化石標本の採集、剖出および観察を行った。ヨーロッパ、北米、日本の三畳系海成層からすでに得られている糞化石標本については、剖出作業と、デジタル顕微鏡および簡易走査型電子顕微鏡を使った内容物の観察を行った。その結果、ヨーロッパの糞化石標本からは魚類や爬虫類など脊椎動物の化石が多く含まれていたのに対し、北米および日本の標本では骨格などの包有物は極めて稀で、大部分が有機物に富むリン酸塩質の基質で構成されていることがわかった。 また、夏季には合肥工業大学と共同で、南部中国の三畳系海成層から得られる糞化石の発掘および標本調査を行った。その結果、下部・中部三畳系から多数の糞化石が得られた。特に、Hupehsuchiaなど特殊な海生爬虫類が発見されることで知られる湖北省の下部三畳系からは、大型の捕食者が排泄したとみられる糞化石が確認された。 現時点での知見をまとめると、ペルム紀末の大量絶滅の直後にあたる前期三畳紀には、パンゲア超大陸の内陸海(テチス海)に位置していたヨーロッパや南部中国などでは、魚類や爬虫類など海棲脊椎動物同士の被食-捕食関係が一般的に成立しており、多くの場合大型捕食者である海生爬虫類も被食者となり得た一方で、当時の外洋であるパンサラッサ海沿岸部にあたる日本や北米では、魚竜類など大型の捕食者も、脊椎動物以外の餌生物に依存していたと仮説付けられた。 この仮説を地球化学的な手法により検証すべく、日本の三畳系から得られた糞化石の炭素および窒素安定同位体比を予察的に測定した。しかし、得られた炭素同位体比は現在の海洋棲捕食者から予想される値と比べ極端に低く、餌生物の栄養段階よりも、微生物の分解作用や続生作用が強く影響していることが示唆された。今後は、糞に含まれる餌生物の硬組織に対する微小領域の同位体分析など新たな手法も視野に入れ、実験計画の見直しを図る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
採用初年度である平成27年度に、日本の東北地方や、ヨーロッパ各地方(オランダ、スイス、ドイツ)、北米のネバダ州などの三畳系から採集された糞化石について、標本の剖出作業と内容物の顕微鏡観察を行った。また、中国の研究者と連携し、貴州省、雲南省、安徽省の三畳系で活発にフィールドワークを行い、多数の糞化石サンプルを採集した。観察の結果、中国やヨーロッパなどの内陸海と、日本やネバダなど公海に接している海域では糞に含まれる生物の化石の組成に違いがあることが分かり、一定の成果が得られたといえる。ただし本研究の主軸のひとつである炭素・窒素安定同位体比分析に関しては、化石の保存状態による影響が大きく期待する程の成果が得られておらず、今後分析方法やデータの補正方法に改良の余地がある。
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今後の研究の推進方策 |
まず、昨年度の調査で極めて多様な内容物が確認された中国の三畳系の糞化石について、追加調査と分析を重点的に行い、ヨーロッパ・北米・日本の標本と比較を行っていく。さらに今後の方針としては、デジタルマイクロスコープおよびSEMを用いた内容物の観察を主な分析方法として、分類学的な検討を行っていく。これに加え、IsoPrimeを用いた全サンプルの炭素・窒素同位体比分析、nanoSIMSを用いた微小領域の同位体比分析、およびレーザーアブレーションICP質量分析計を用いた微量元素組成分析を補助的な手法として取り入れ、被食生物の栄養段階の解明を目指した解析を行っていく。
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