研究実績の概要 |
本年度は,糞化石包有物の形態学的な解析,および古生態系復元の情報源としての体化石の調査に重きを置いた研究を行った. 糞包有物の形態学的な解析に関しては,マイクロフォーカスCTスキャンを用いた糞化石内包有物の撮像を行った.三畳紀中期のテチス海浅海域に相当するオランダWinterswijkの中部三畳系産の糞化石には,脊椎動物化石とは明らかに異なる3次元構造を持った内容物が含まれていることが確認された.これにより,三畳紀中期の海洋生態系において重要な餌として,過去研究で想定されてこなかった無脊椎動物を特定できる可能性が高まったといえる. 体化石に関しての研究は,主に,日本の東北地方の下部三畳系における発掘調査,中国における下部ー中部三畳系の体化石コレクション調査およびフィールド調査,近年得られた極東ロシアの下部三畳系から発見された体化石の記載などを通じて行った.特筆すべき成果は,日本の下部三畳系からこれまでほとんど発見されていなかった硬骨魚類を複数種確認したこと,ロシアから発見された化石が世界最古の魚竜化石であり,当時爬虫類がすでに他の捕食性脊椎動物を体サイズで圧倒していたことを明らかにしたこと(いずれも論文準備中)である. また,本研究では糞化石の内部に多く含まれる微小な化石骨組織から分類群を特定する方法論の確立を目指している。このメソッドの現段階での応用例として,中央ー東アジアの下部白亜系非海成層から多数発見されている水生カメ類の断片的化石を用い,その骨組織学的解析を行った.その結果,偏光顕微鏡下での骨組織学的観察により,膠原線維束の立体構造を復元することで,科レベルでの分類群同定が可能であることを実証し,この研究成果をJournal of Vertebrate Paleontology誌に発表した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,オランダWinterswijkをはじめとして,様々な地域の三畳系海成層産糞化石から内容物が確認されており,その一部はマイクロCT解析により3次元データを取得している.しかし3次元データの可視化,詳細な分類学的同定は2017年度での課題である.糞化石CT画像データ中の内容物と基質のCT値は極めて近く,マニュアルでの画像処理が必要となる.この問題に関しては,化石CTデータを扱っている複数の研究室(東京大学大気海洋生命システム研究系,東京大学総合研究博物館)に協力を依頼し,立体構築ソフトを使ってポリゴンデータの作成を試みる. 糞化石内容物の化学組成分析に関しても,EPMAによる微量元素マッピングを中心に,引き続き解析を続ける.特に餌生物の体組織である糞包有物に濃集する元素の濃集や,底生生物食や懸濁物食生物の糞に含まれると期待される珪酸塩の混入の程度に着目し,これらについて標本サイズや堆積環境間での比較を行う. また,東北地方南部北上帯の下部三畳系より得られた魚類化石に関するより詳細な分類記載,および各種の形態などに基づく食性解析も,最終年度の課題である.化石のプレパレーションには膨大な時間と費用が必要となるため,ここでもCTスキャンによる3次元形態の記載を行う.これら生物同士の食物網における関係性は明らかではないが,栄養段階の指標としての体サイズ,歯・顎の形態,共産する体化石の種類および糞化石の内容物解析から,概略的な当時の食物網構造の導くことが可能と考えている.
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