研究課題/領域番号 |
15J06629
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川瀬 さゆり 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | シャルトル大聖堂 / 鉄骨 / 木造トラス / 小屋組 / サザーク大聖堂 |
研究実績の概要 |
本研究は19世紀のフランスで中世建築に導入された鉄製小屋組についてシャルトル大聖堂の小屋組(1837-39)を基点として同時代の小屋組の史的展開を明らかにすることを主な目的とする。 本年度は19世紀前半の小屋組作例の実態およびそのシャルトルの小屋組への影響関係を構造・材料・形態の観点から明らかにすることを目標とした。シャルトルの小屋組に先行しこれにモデルを与えたと言われるロンドンのサザーク大聖堂の小屋組とドイツのマインツ大聖堂のドームが本当にシャルトルの手本となったのか、実際にどのような影響関係が見られるのか、またフランス国内の先行作例からの影響はあったのかといった問題を検討するために現地にて関連作例の文献調査・遺構調査を行った。(シャルトル大聖堂、サザーク大聖堂、リバプールのセント=ジョージ教会とセント=マイケル教会、マインツ大聖堂、テアトル・フランセ、マドレーヌ寺院、会計法院)シャルトルの小屋組部品が鋳造されたフォーシャンブール鋳造所に関する調査も実施した。また当該鉄製小屋組の誕生背景および当時の修復観を考察するうえで重要となるためシャルトルの焼失した旧木造小屋組の形態についても調査を行った。 その結果サザークとマインツの先例は当時における鋳鉄の軸組部分への大量使用においては確かに先行するものの、構造上の工夫や形態においてはシャルトルの小屋組に必ずしも直接の影響を与えたわけではないことが判明した。フランス国内の先例も本年度の調査の限り部材の接合など一部に共通点が見られるもののシャルトルの小屋組案に直接の参照源を与えたとは言い難いことがわかった。また焼失したシャルトルの旧小屋組の木造トラスが十字型の筋交いを持っておりこれが新小屋組のトラスにおいて再現されたという仮説を得る事ができた。これは当時の中世建築の小屋組修復における形のオーセンティシティ意識に関わるため重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究計画の要であったイギリスとドイツの先例調査を計画通り遂行することができた。フランスよりも調査の手続きが難航することを懸念していたが順調に進んだ。同様にフランス国内の作例調査も一部の遺構を除き順調に行われた。建造物の管轄によっては調査の実現が難しかったり許可の取得までに時間を要するものがあり必ずしも研究者側の期待通りに調査が進捗しないことも少なくないが、これはフランスで研究を行う場合通常想定内のことであり、本年度は計画した調査を概ね達成できた。歴史研究の性質上同時代の作例が一定量確保されたうえでの分析・考察が意味を持ってくるため、本格的な論文化は来年度以降の調査を踏まえてから行う予定だが、最終目標としている小屋組の歴史的系譜の基礎を本年度は着実に準備することができたので本研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
フランス国内の19世紀前半の作例を可能な限り突き止め分析することが今後予定している19世紀後半の作例分析および全体的な史的展開の解明に不可欠であると判断し、当初の計画より多くの世紀前半の作例を収集・分析することに方針を一部修正し現在作業にあたっている。 平成28年度はシャルトルからサン=ドニおよびサント=クロチルドまでの系譜を明らかにし19世紀前半から後半までの鉄骨小屋組の史的展開を接続することを目標とする。上半期は前年度同様19世紀前半の作例調査を継続して行い一定数以上の資料体を確保したうえでシャルトルまでの系譜を丁寧に跡付ける。下半期ではサン=ドニとできればサント=クロチルド教会の小屋組までの調査を進める。日照時間の長い夏期中にできるだけ遺構調査を実現し、それ以外の時期は文献調査にあたる。ピエールフォン城の小屋組については翌年度ヴィオレ=ル=デュクの鉄骨理論を検討する際に彼の他の作例と合わせて調査する方が効率的であるため、当該年度中に無理には実施しない。 フランスの行政的問題により今後の研究では遺構調査の許可がなかなか降りないなどの問題が発生することも予想されるが、その場合は文献調査や類例との比較などからデータを補完するなど状況に応じて柔軟に対応する。またこのような問題に備えて現地での調査期間を長く確保する。
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