本研究は19世紀のフランスで中世建築に導入された鉄製小屋組についてシャルトル大聖堂の小屋組(1837-39)を基点として同時代の小屋組の史的展開を明らかにすることを主な目的とした。最終年度は上半期に19世紀後半の小屋組作例の遺構・文献調査を行い各小屋組の実態検証を進め(材料・形態・構造)下半期にこれまで得られた結果についての体系的考察と文化遺産保存修復思想に関する理論的考察を行った。本研究の結果、1810年代から1920年代初頭までのフランスにおける主要な公共建築およびゴシック大聖堂ならびに中世建築で導入された鉄骨小屋組の詳細な通史を纏め上げることが出来た。 まずシャルトル大聖堂の鉄骨小屋組の形式は19世紀を通じて20世紀初頭まで主要なゴシック大聖堂の鉄骨小屋組でも受け継がれ続けた事実が明らかとなった。19世紀前半のフランスの建築家たちは16世紀の軸組方式への関心から大聖堂の小屋組修理であっても材料と技法を歴史性のない新しいものへ変更することに抵抗がなくむしろこれを積極的に行っていた一方で、元の小屋組の外形や軸組形式については保持しようとしていた実態が浮かび上がった。シャルトルでも耐火性が優先され鉄の使用が異論なく採用された一方元の木造小屋組を彷彿とさせる堅牢な印象を与えるトラスが選択された。19世紀後半の司教区建築家たちによる鉄骨小屋組再建現象とは古典の建築家たちの鉄骨志向を受け継いだゴシック派の建築家たちによる自発的な取り組みだったのであり、このような現場の実践が長らく鉄骨先例を批判しその使用を躊躇し続けたヴィオレ=ル=デュクの態度を転向させたという考察が得られた。 成果の一部はフランスの学会論文誌へ掲載された。成果の全体は体系的に約480頁の著書の体裁で纏め上げた。これは遅くとも2018年度中に公表される予定である。4月現在はフランスでの出版に備えて準備を進めている。
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