本年度もLHC-ATLAS実験は重心系エネルギー13TeVで順調に陽子・陽子衝突を行い、2015-17年に取得した積分ルミノシティはおよそ80/fbに達した。本研究員は引き続きCERN研究所に積極的に渡航し、トリガーの専門家としてオンラインソフトウェアの管理・運用、取得したデータのクォリティチェックを行って実験の遂行に貢献した。 並行して、2015-16年に取得した36/fbのデータを用いた解析を進めた。昨年度から続いて、リーダーとしてATLAS実験内の解析サブグループ(約30人からなる国際グループ)を主導した。新粒子が2つのボソンに崩壊する信号を考える。片方のボソンは背景事象を抑制するためレプトン崩壊することを要求する。もう片方は崩壊分岐比の大きいハドロン崩壊モードを用いる。昨年度、開発・性能評価を行ったハドロン崩壊するボソンの新しい再構成テクニックを適用した。解析の結果、観測されたデータは標準模型の背景事象と誤差の範囲内でよく一致し、新粒子の兆候は得られなかった。余剰次元模型のひとつであるバルク・ランドール=サンドラム模型で予言される新粒子KKグラビトンを質量1.75 TeV以下で棄却する厳しい制限を与えた。 今後もさらにデータを足して断面積に対する上限値をどんどん下げていき、質量数TeVの新粒子発見を目指す。感度改善の鍵を握る次世代の技術として、機械学習を用いてハドロン崩壊するボソンを選択するアルゴリズム開発も進めた。信号検出効率をそのままに、背景事象を1.1倍から1.5倍削減できる見込みだ。現在、系統誤差の見積もりを進めており、2021年までに解析で実用化することを目指している。
|