研究課題
社会認知を介した意思決定機構の神経基盤解析が本研究の目的であるが、そもそも当該機構がメダカに与える適応的意義については考察されていなかった。そこでまず、メダカのメスが親密度の高いオスを認識し、性的パートナーとして選択する適応的意義について考察する実験を行った。具体的には、多くの動物のオスは、繁殖期間のみに配偶者防衛行動を示すのに対し、メダカのオスは配偶行動時間帯である朝の時間帯以外にも配偶者防衛行動を示すことに着目した。水槽を透明な仕切りで3区画にわけ、それぞれにメス、オス(メスから近位に位置する近位オス)、オス(メスから遠位に位置する遠位オス)を投入し、配偶者防衛行動を定量。定量後は仕切りのある状態を維持した。そして翌朝、着目したいオスとメスだけが水槽に残るように、しきりとオスを取り払い、メスがオスの求愛を受け入れるまでの時間を測定した。すると、近位オスとして正常オスを用いた際は、遠位オスの求愛をメスは拒絶しがちだったのに対し、近位オスとして配偶者防衛を示さない遺伝子変異体を用いた際には遠位オスの求愛をメスはすぐにうけいれた。よって、配偶者防衛行動はライバルオスとメスとの親密度上昇を阻害し、メスの求愛受け入れを自らに対してのみ亢進させる効果がある可能性が強く示唆された。メス側からすると、親密度の高いオスは配偶者防衛行動において優位なオスである可能性が高く、オス間競争に勝利した社会的にも優位なオスの子孫を残すことができるというメリットがあると考察できた。オスメス間の絆形成の進化的起源を考察する上で、重要な発見だと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定とは異なり、社会認知を介した意思決定機構の適応的意義を考察するための実験を行ったが、実施計画に記載した、遺伝子組み換え個体の作成は順調に進んでおり、各個体の成長を待つ段階である。
遺伝子組み換え個体のライン化に向け、各個体を成長させた後、かけあわせを行う。また、Tet-ONシステムがワークしない可能性を考慮し、化学物質の投与による時期特異的な遺伝子発現制御をするシステムとして、DD(不安定化ドメイン)を用いたシステムを検討する。
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Zool. Sci.
巻: 33 ページ: 246-254