研究実績の概要 |
本研究は次の三つの目的を持ち,本年度は,それらを完遂するための予備的な研究と実験を行った.(1)「英国の女王」などの確定記述に対して与えられてきた諸理論の経験的優劣を明らかにする.(2)名詞以外で文脈に意味が依存する表現(「欲しい」などの心的態度動詞,「かもしれない」などの様相表現,「おいしい」などの嗜好表現など)を分析する. (3)上記2つの成果を知識動詞など,認識論的に重要な表現へ応用し,言語研究の認識論的帰結を探る. (1)確定記述・固有名の意味に関する直観を調べた言語横断的な先行研究 (Machery et al. 2004, Semantics, Cross-cultural Style など)における日本語・中国語に関する問題点を指摘し,それを修正した実験を共同研究者と行った.これは,ことばの直観に関して,東洋人・西洋人の間に差異があるとする現在主流的な立場を批判する,重要な独立の研究成果である.また(1)を進め,確定記述一般の性質を明らかにする実験をさらに行うための予備的知見も得た. (2)に関する文献の精査を行い,「おいしい」といった嗜好表現分析について,有望とみられる立場に関する研究発表を行った.ことばの意味の内容として措定される「命題」に関する近年の文献を考察し(Scott Soames, 2015, Rethinking Language, Mind, and Meaningなど),心的対象として理論化された命題によって,嗜好表現の分析が可能であると主張した. (3)に関して,共同研究者とともに,日本語の実践的な知識表現「どう...するか知っている」についての研究論文を執筆した.英語と日本語の実践的知識表現を比較することにより,日本語の実践的知識表現は,英語の実践的知識表現と異なり,主体へ能力を帰属しないということが判明した.
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