研究課題
平成27年度の研究では、(1)暗黒物質探索実験のバックグラウンドとなる高速中性子を検出するための原子核乾板の開発、(2)原子核乾板に記録される反跳陽子飛跡を自動で読み取る手法の確立、(3)カリホルニウム252中性子線源を用いた検出器の較正手法の確立を行った。(1)中性子計測のためには、最小電離粒子に感度がなく、電離損失の大きい中性子からの反跳陽子の飛跡は検出できるようにしなければならない。そこで、原子核乾板に対し感度調整を行うことで最小電離粒子による飛跡が写らないようにした。このように感度を落とすと飛跡が時間経過によって消えてしまう現象が発生したが、HA増感という手法を用いることで低い感度を保ったまま1ヶ月間飛跡が消えないことを確認した。(2)高速中性子からの反跳陽子飛跡は従来の読み取りシステムでは読み取ることができなかった。そこで数10マイクロメートル程度の非常に短い飛跡を3次元的に認識するための新たな読み取りアルゴリズムを開発し評価を行った。20マイクロメートル以上の飛跡に対しては90%以上の認識できることを確認した。(3)中性子検出器としての性能を評価するために、カリホルニウム252中性子線源を用いて較正を行った。一定期間中性子を照射した原子核乾板から反跳陽子飛跡の3次元情報を得ることで飛跡の方向分布、イベント数を計測した。この結果とシミュレーションによる結果を比較し、方向分布、イベント数ともに一致することを確認した。また名古屋大学において地上の環境中性子測定を行い、中性子フラックス、方向分布を測定を行った。さらに、地下での環境中性子測定に向け、イタリアのグランサッソ地下研究所で小規模なテスト実験を行った。作成した原子核乾板は名古屋大学に持ち帰り解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
本研究では平成28年度にイタリアのグランサッソ研究所において中性子測定を行うことを計画している。そのために平成27年度に(1)暗黒物質探索実験のバックグラウンドとなる高速中性子を検出するための原子核乾板の開発、(2)原子核乾板に記録される反跳陽子飛跡を自動で読み取る手法の確立、(3)カリホルニウム252中性子線源を用いた検出器の較正手法の確立を行うことができ、かつグランサッソ研究所におけるテスト実験まで行うことができた。これは計画通りである。
本年は昨年度までに実施した原子核乾板の解析を中心に行う。解析は主に名古屋大学で開発した原子核乾板読み取り装置 HTSを用いて行う。既に原子核乾板の画像を取得し、その飛跡を自動で解析するためのアルゴリズムを開発しているが、従来手法では解析時間がかかりすぎるためその高速化を行う。また地下で照射を行った乾板はアルファ線がバックグラウンドになることが想定されており、これを定量的に評価する手法を確立する。また、バックグラウンドとなるアルファ線を除去するアルゴリズムを開発し、これを適用する。以上により、地下中性子フラックスの上限値を実験的に求める。以上の研究内容を含め、原子核乾板による暗黒物質探索実験に関する発表および論文執筆等を行う。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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