平成28年度の研究では、(1)原子核乾板に記録された反跳陽子飛跡の新たな読み取り手法の開発、(2)読み取り手法の評価方法の開発を行った。イタリア・グランサッソ研究所のファシリティの準備が2016年イタリア中部地震の影響などで遅れたため、新ファシリティにおける中性子測定を行うことができなかったが、読み取り装置に関する開発を進め、暗黒物質探索の背景事象となる高速中性子測定を行うための基盤技術を確立した。 (1)従来方式の読み取り手法は、原子核乾板中に3次元的に記録されたグレインを2次元平面に投影した上で、それを接続し直線らしい飛跡の探索を行ってきた。この手法は比較的高速で散乱の多い飛跡でも探索しやすいというメリットがあったものの、交差するような飛跡に対しては探索に失敗することがあった。そこで、Gabor filterを用いた「直線パターン解析」を導入し、総当たりで直線を探索する手法に変更した。 (2)(1)で開発した読み取り手法の妥当性を検証するため、最小電離損失粒子を用いた評価手法を開発した。これは、乳剤層を厚み方向に4つに分け重ね合わせ、それぞれで前述の直線パターン解析を行い、4層中3層で一直線に並ぶような飛跡を母数に、残る1層で飛跡が発見できるかどうかを指標に検出効率とした。NINJA実験で用いられた原子核乾板を用い、超高速自動飛跡読み取り装置HTSで読み取りを行い、宇宙線ミューオンに対して検出効率を評価した。従来の読み取り手法では認識できなかった大角度の飛跡の評価手法を確立し、2017年日本物理学会年次大会で報告した。
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